コールドチェーン
St.Jude Children’s Research Hospitalが白血病研究で、ThawSTARを利用しました。 出典:Wikipedia
*Astero Bio社が旧medcision社の事業を承継しておりましたが、Astero Bio社がBioLife Solutions社に吸収合併されたことにより、現在はBioLife Solutions社が事業を引き継いでいます。
テネシー州、メンフィスにあるSt. Jude Children’s Research Hospitalで行われている異なった2つの研究で、若年の患者から採取された凍結保存白血病細胞の融解に旧medcision社のThawSTARが使用されました。
St. Jude Children’s Research Hospitalは、がんやその他の致命的な疾患に罹患した子供たちへの手厚いケアや治療で良く知られています。この病院の研究機関も同様に有名で、その画期的な研究によって小児がんの生存率が大きく改善されたという功績があります。事実、St. Jude Children’s Research Hospitalは、米国の他の病院よりも多く、がんの臨床試験を行っています。ここでご紹介する研究はともに、正常細胞の変異によるがん化や、またがん細胞の治療に対する反応性に対して、特長的な遺伝子変異がどのように影響を及ぼすのかについての、先進的な研究です。[1,2]
殆どの人が知っていると思いますが、白血病は体内の造血組織のがんです。この疾患はまた、小児や10代に最も多く見られるがんでもあります。この疾患に罹患した人は、適切に機能しない異常な白血球を産生します。正常な白血球を持たないことで、患者は頻繁にかつ重篤な感染症にかかったり、異常なあざや出血、その他重大な症状を呈します。良いニュースとして、年月とともにこの恐ろしい疾患の全体的な生存率が伸びており、現在は60~70%の生存率となっています。15歳以下の子供では、数種類の白血病で生存率が90%を超えています。
これらの数字は希望を抱かせるものですが、一度この病気に打ち勝っても、戦いは続きます。St. Jude Children’s Research HospitalのDr.Charles Gawadの研究室では、がんの基礎となる原因を研究するために、シングルセル・ゲノミクスを利用し、治療への反応性を予想しています。Dr.Gawadは、概して一種類のがんを生物学的に詳しく理解することは、個々の細胞の構成を最初に正確に分類することで可能になると考えています。従来、がん細胞集団における遺伝的多様性の試験は、多量の腫瘍組織の遺伝子配列を解析するという手法をとっていました。しかし、通常、この手法では、結局のところ試験する細胞集団内で最も多くの変異を繰り返し検出するということになります。過去10年より短い期間でのシングルセル遺伝子解析の導入が状況を大きく変えました。これによって、がんの発症原因について新たな知見を得られる、より頻度の低い遺伝的変異の検出が可能となりました。
Dr.Gawadの研究チームは、シングルセル遺伝子解析と低頻度の変異のシグナルを増強する手法を組み合わせる新たな方法を開発しています。
この研究を達成するためには、白血病細胞が新鮮な患者骨髄サンプル採取され、そして凍結保存が行われます。これらの細胞は旧medcision社のThawSTAR凍結細胞融解ステーションを用いて融解され、生細胞の割合を確定し、DNA解析チップに載せられます。個々の細胞は分離されてDNAが抽出され、ゲノム全体の解析が行われます。
こういった包括的解析戦略の根幹を成すのは、正常細胞とがん細胞を比較し、異なったがん細胞集団に分類されるDNAの構造的変異やヌクレオチドの変化を検出できるということです。[1]シングルセル解析手法は従来のバルク解析よりも大幅に感度が高く、そのため、論文の著者らは、それまで未発見であった低頻度の遺伝的変異を発見することができました。この研究の研究者らは、採集したデータを利用して任意のがんの変異過程を再構築し、がんを誘発する過程を解明するためにその情報を活用しています。
Dr.Gawadの研究チームが発見した内容は極めて興味深いものでした。彼らが分類した遺伝子修飾を精査したところ、明確な一連の事象が腫瘍の形成に影響を与えていることが明らかになったのです。この一連の流れは、免疫系分子の構築を補助する酵素の、遺伝子の構造的変化(SV)から始まります。このSVだけでは、がんは形成されません。その代わり、その後の段階で獲得されるRNA編集酵素の変異が、元々のSVと共同して働き、正常細胞の白血病細胞への変化を促進するのです。RNA編集酵素はウイルス感染に対する生体防御に関与しており、この知見はウイルスへの環境的な曝露が、がんの起因となる変異を誘発するという考えを支持しています。これは全く複雑なことのように聞こえますが、大事なことは、この新しいデータは、特定の細胞集団における一見無害な変異ががんの発症に対してどのように寄与するかを研究者が理解する上で役立つだろうということです。次なる目標は遺伝子編集やその他のツールを用いてがんの発症を止めることになるでしょう。
特定のタイプの遺伝的変異ががんの形成を促進するということを発見したことで、Dr.Gawadの研究チームはさらなる研究を行いました。[2]どのようにがんが発症するかについての彼らの知見を、白血病細胞集団の遺伝的多様性の研究を利用してさらに追及することにしました。Dr.Gawadらは、この所見が、医師が患者に合わせた治療を行う上で役立つと考えています。
これらの最新の研究で使用された細胞は、専らSt. Jude Children’s Research Hospitalで治療を受けている患者から採取されたものです。細胞はアフェレーシスを介して採取され、この段階で密度勾配によって単核細胞が分離されて凍結保存が行われました。研究室において、それぞれの患者から得られた1バイアルの細胞がThawSTARシステムを利用してゆっくりと融解され、その後3週間増殖が行われました。細胞の数が十分な量にまで達すると、化学療法に使用される様々な種類の薬剤に曝露させ、その後、薬剤の曝露に生存した細胞の遺伝子構成を追跡しました。
初期の研究と同じく、その結果からがん細胞はどのように変異し、生き残るのかという点において、興味深い所見が得られました。がんの発症を促進するファクターだと考えられていた変異が、がんの進行においては重要な役割を果たしておらず、事実、選択的薬剤処理の後は支配的な形質は示しませんでした。その代わり、特定の遺伝子変異を有する白血病細胞集団に対して選択された様々な化学療法薬剤への曝露は、用量依存性を示しました。
これは、異なった細胞集団は、異なった薬剤感受性を有しているということを示唆しており、多剤療法とともに、個々を基準にして薬剤耐性白血病細胞集団に対して合わせた治療の必要性を強調しています。
St. Jude Children’s Research HospitalのDr.Gawadの研究チームは、小児がんの根本的な原因を解明するため、これまでで最も意欲的な研究を行っています。科学者や医師も同じく、がん発症の原因となる遺伝的ファクターの特定や、特定のがんに対するリスクがある人のスクリーニングが可能となり、早期診断や遺伝子療法を通して事前に予防的介入へと繋がることを期待しています。St. Jude Children’s Research Hospitalの科学者はまた、また別のがん研究にも関わっています。彼らは、希少タイプの脳腫瘍に存在する重要な変異を同定し、この遺伝子の変異が早期進行型の小児白血病治療に重要であるかもしれないということを発見し、また、がんゲノムデータの検索アプリケーションを開発しました。総括すれば、これらの研究の結果は、がん研究者がさらに小児白血病の発症メカニズムを理解することや、この疾患に対してどの方法が最も有効であるかを理解する上で役立つものとなるでしょう。
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