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By Esco Medical 27 January, 2021
IVF(体外受精)サイクル間の胚培養が上手くいくかいかないかは様々な要素に左右され、また胚の品質は影響を受けやすいため、これらの要素が移植や妊娠率にも影響を与えることが複数の研究により示唆されています。
さらに、体外受精の結果がここ数年で劇的に改善されている主な要因に、胚培養系の進歩があると考えられています。
ここで、「では、培地・空気の質・インキュベーター・ディッシュの種類などの培養条件が、IVFの成功率やIVF出生率に影響を与えるのだろうか?」という疑問が浮かびます。
胚培養が上手くいくかいかないかには、様々な要素が関係します。胚の品質に影響を与える点を以下に簡単に記述します。
培地は細胞成長を促す複雑な液体です。胚培養用の培地は、組成を子宮液に近づけ、胚の自然環境を再現するように開発されています。
現在市販されている培地には、複数のビタミンや栄養素、そして特定の成長因子など様々な成分が含まれています。これら市販の培地は広く使用されていますが、操作(特定の成分を加えたり除いたりすること)が可能なため、専門家の中には自家製のシーケンシャル培地を好む人もいます。
様々なメーカーで製造されている培地の多くは、欧州指令(CE)やマウス胚アッセイ(MEA)規則に適合しています。CEマーキングは、培地の化学的組成、その品質評価、市販後研究、市販後調査、副作用のモニタリングおよび報告のシステム 全てを開示していることを意味します。
一方、MEAマーキングはマウス胚の胚盤胞期までの試験で80%以上が正常に成長したことを意味します。これにより、培地の安全性が証明され、毒性の心配に対する保証がなされています。
培地が周産期の結果(妊娠期間や出生体重)に影響を与えることがわかっています。幾つかの動物実験において、胎児の異常成長と特定の培地成分に関係があることが見つかっています。これらの培地の栄養成分は初期胚の発達に影響を有するため、子供の健康に影響を与える可能性があることを理解しておくことが重要です。
培地には基本的に次のものが含まれています。
IVF用インキュベーターは、IVFラボで最大級に重要な装置です。インキュベーターは環境のモニタリングや、in vitro環境下で成長中の胚に必要な環境を提供するために使用されます。現在、様々な種類のインキュベーターが販売されていますが、それぞれのインキュベーターには、IVF学会が理想とする環境を実現するための技術的な進歩を備えています。
ESCO Medical社のインキュベーターには様々なモデルがあります。MIRI®、MIRI®II、mini MIRI®(ドライ・加湿)などのマルチルームインキュベーターは、形状や機能面で革新的なベンチトップ型のインキュベーターです。これらのインキュベーターは、一つのチャンバーの環境が変わっても、隣接するチャンバーへの影響がありません。従って、頻繁なインキュベーターの使用(扉の開閉など)によって起こる、温度やガス構成の変動による悪影響を排除することができます。
MIRI® TL(タイムラプス)は、エスコメディカルが開発したユニークなインキュベーターです。デジタル倒立顕微鏡を用い、培養中の胚の画像を連続して記録するタイムラプス技術という先進的な手法を利用しています。Esco Medical MIRI® TLはカメラと顕微鏡を内蔵しているため、胚培養士は受精から移植までの間、胚に影響を与えることなく、その成長を観察することができます。この方法は、従来の標準的な培養方法と比較して、胚に対する環境のストレスを大きく軽減することができます。MIRI® TLに搭載された技術により、培養中の胚の発生動態について、連続した完全なる情報を収集および記録することができます。
MIRI® タイムラプスインキュベーター
特長:
胚の培養にインキュベーターを使用する場合、培養ディッシュも必要です。IVF培養ディッシュは、細胞を培養、成長させるために理想的な培地の容器として使用されます。
ESCO Medical社のマルチルームインキュベーターには様々な培養ディッシュが使用されます。ただし、MIRI® TLでは、CultureCoin®という本機種専用にデザインされた培養ディッシュが使用されます。
CultureCoin®は、ガンマ線滅菌済のシングルユース消耗品で、気泡の形成を防ぐため表面に酸素プラズマ処理を行っています。人間工学に基づいたデザインにより、胚を14個の培養ウェルに入れる作業を簡単に行うことが可能で、またインキュベーター内での取り回しも安全かつ確実に行うことができます。このウェルには胚を置くための300μmのエリアがあります。このエリアは透明になっており、顕微鏡観察に対して最適なエリアとなっています。
IVFを実施するためにはこういった専用のディッシュを用いることが理想的でしょう。
IVFラボを循環する空気の質も重要です。空気の質に影響を与える要素で、考慮すべき重要ものは胚培養のpHです。このpHは、インキュベーター内を満たすガスにより決定されます。配偶子の機能や胚の発達を保護するためには、胚の培養に最適なガスの濃度(例えば酸素など)を得ることが重要です。特定の活性酸素種(ROS)の増加は、DNAやタンパク損傷に繋がる可能性があります。揮発性有機化合物(VOCs)もまた空気の質に影響を与えうるため、インキュベーターにはガスのインラインフィルターシステムが必要です。(Esco MedicalのインキュベーターはCO2とO2を独立して制御しており、また、HEPA/VOCフィルターにより空気をろ過する優れたフィルターシステムを備えています)
胚の代謝や減数分裂、配偶子の挙動は、胚が曝露する温度範囲に影響されると考えられおり、理想的な温度に対し大きな関心が寄せられています。通常、胚培養の温度はインキュベーター内で37℃に制御されています。また、湿度も温度とともに培養の安定性に寄与します。湿度を適正に保つことにより、培地の蒸発による浸透圧変化(胚の損傷に繋がる可能性がある)を抑えることができます。
IVFクリニックまたはIVFラボは、胚の培養系を改善し、生殖補助技術(ART)の効果を最大限に引き出すため、IVFラボ内での環境要因による変化を軽減することを目標としています。
IVFラボの培養条件に関する方法は常に進歩しています。体外受精の成功率を高めるためには、条件や装置の改善、革新的な技術の導入などが必要不可欠です。