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COVID-19は病名、SARS-CoV-2はその原因となるウイルス名です。
2019年12月に、中国でSARS-CoV-2の感染がWHOに報告されてから世界中でCOVID-19が拡大しています。日本で最初の感染者が報告された2020年1月以降、COVID-19の感染者数は欧州やアジア、南米などの一部の国ほどの爆発的な増加は無いものの、日本国内においても増減を繰り返しつつ感染が起こっており、未だに収束の兆しがありません。製薬会社等によるワクチン開発も進んでおり、速やかな収束が待たれます。
さて、本ページにおいては、弊社にご質問いただく内容を元に、PCR検査とは何か、また検査キットの原理などを簡単にご説明するとともに、PCR装置や検査キットのご紹介をいたします。
なお、本ページは詳細な説明は避け、PCR検査とは何かを最小限ご理解いただくためのものです。そのため、プライマーやポリメラーゼ、アニーリングなどの用語を極力使用せず、あくまで簡潔な内容の表現に留めております。PCR等の原理を充分にご存じの方は、本ページ下部の「SARS-CoV-2の検査(RT-qPCR)に必要な装置・消耗品について」からご覧ください。
詳細な原理等の情報をお求めの場合は、より専門的な情報を提供するWEBサイトや専門書等でご確認いただきますようお願いいたします。
COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、コロナウイルスの一種で遺伝情報の本体としてRNAをその中に有しています。DNAを持たないため、いわゆる通常のPCRではDNAを増幅させることができません。そのため、SARS-CoV-2の検査においては、RT-PCR(逆転写PCR)を応用した「逆転写リアルタイムPCR」が主流として利用されています。
PCRは、Polymerase Chain Reactionの略で、極めて簡潔に表現すれば「温度を上下させる装置(PCR装置・サーマルサイクラーなどと呼ばれます)と専用の試薬を使用して、試料中に存在する特定のDNAを増幅させる反応のこと」を言います。
また、増幅に必要な温度の上げ下げの1セットのことをサイクルと呼びます。
RT-PCRは、Reverse Transcription Polymerase Chain Reactionの略で、Reverse Transcriptase(逆転写酵素)を使用する方法です。基本的な原理はPCRと同じで、PCR装置や専用試薬を用いて行います。通常のPCRはDNAをサンプルとしてDNAを増幅させますが、RT-PCRは逆転写酵素を使用し、RNAをサンプルとしてDNAを増幅させる点が異なっています。RNAをDNAに逆転写する理由は、シンプルにPCRがDNAを増幅する手法だから(RNAは増幅できないから)です。
先述の通り、コロナウイルスは遺伝情報としてRNAを持っているため、コロナウイルスのPCR検査ではこのRT-PCR法が用いられます。
PCRはPCR装置を用いて単にサンプルとなる核酸(DNAやRNA)から、ある決まったサイクル数でDNAを増幅させることを目的として行いますが、リアルタイムPCRはPCR反応中のサイクル毎のDNAの増幅をリアルタイムで観察することを目的として行います。
専用のリアルタイムPCR装置とリアルタイムPCR専用の試薬を使用し、試料中の特定のDNAがどのように増幅するかを確認することができます。広義にはqPCRとも呼ばれます。
増幅量を確認すると言ってもDNAの数を一つ一つ数えることはできません。
そのため、DNAの中に入り込んで蛍光を発する物質(インターカレーション法)や、DNAが合成される際に蛍光を発する物質(プローブ法)を使用し、サンプルに光を照射することによって発せられる蛍光の強さを測定することで、増幅量を確認します。
従って、リアルタイムPCR装置は単純に温度を上下させる機能のほか、サンプルに光を照射し、サンプルから発せられる蛍光の強さを検出するセンサーを内蔵しています。
PCR反応で増幅したDNAの量が多ければ多いほど発する蛍光の強度も強くなるため、反応中の蛍光強度を測定することによりどの程度DNAが増幅しているかを確認することができます。
リアルタイムPCRを使用して行われる試験には、定性試験と定量試験があります。定性試験は、サンプルの中に目的とするDNAが存在するか否かを確認するために行うもので、原則として目的DNAがどれくらい増えたかという値はさほど重要ではありません。一方で、定量試験は元のサンプル中にどれくらいの核酸(DNAやRNA)が存在したかを確認する試験です。コロナウイルス検査においては、サンプル中にコロナウイルスが存在するかどうかが重要なため※、定性試験が行われています。
※定量試験ではなく、定性試験である理由は、サンプル中にコロナウイルスが含まれているかどうかが最も重要な情報であり、実際にどれだけの量のコロナウイルスがサンプルに含まれているかを正確に知る必要がないためです。なお、リアルタイムPCR装置で定性試験が行われる大きな理由は、増幅したDNAを蛍光検出でリアルタイムに測定できることから、迅速に結果が判明するためです。
SARS-CoV-2検査に必要なものは基本的にはリアルタイムPCR装置と検査試薬です※。
検査試薬には、RT-qPCRを行うために必要な物質が全て含まれており、検体が準備できれば基本的には検査試薬の取扱説明書や添付文書に従って操作することでサンプルの調製が可能です※。
調製したサンプルはリアルタイムPCR装置にかけ、目的となるSARS-CoV-2のDNA(元のRNA)がどれだけ増幅したかを確認し、陽性/陰性の判定を行います。
※実際にサンプルの調製を行う際は、その他マイクロピペットや安全キャビネット、遠心機などが必要です。検査工程にご使用いただける器具・装置は弊社WEBページ(本ページ下部のリンクからご覧いただけます)でもご案内しております。
SARS-CoV-2ウイルスのPCR検査キットには、研究用試薬や体外診断薬があり、ウイルス検出のため、前の項目で述べたプローブ法やインターカレーション法が利用されています。詳しい機序は割愛しますが、SARS-CoV-2ウイルスRNA(実際に増幅するのはDNA)および内在性コントロール(内部コントロールなどともいう)※1は、それぞれCy5やFAM、ROXといった蛍光で標識され、リアルタイムPCRを行うことにより、サンプル中のウイルスRNAを検出します。
検査キットは研究用、体外診断薬を含めて各社から発売されていますが、それぞれ使用する蛍光が異なる場合があり、使用する検査キットの蛍光を検出できるリアルタイムPCR装置が必要となります。すでにリアルタイムPCR装置をお持ちの場合は、お持ちのリアルタイムPCR装置に合わせて検査キットを選択する必要があります。
このように、蛍光標識は各社の検査キットによって異なるため、検査キットを使用される前や、リアルタイムPCR装置をご購入される前には、リアルタイムPCR装置と試薬(または体外診断薬)の適合性について、予めよくご確認ください。
実際の検査キットの使用方法については、製品に付属の取扱説明書(または添付文書)や、各メーカーのホームページ等でご確認ください。
※1内在性コントロール
内在性コントロールはサンプル自体の量や品質に問題がないことを確認するための指標です。
例えば、内在性コントロールがFAMという蛍光で、ウイルス由来のDNAがCy5で標識される場合、次の理由で内在性コントロールが使用されています。
サンプル自体の量が少なかったり、劣化している場合、FAMの蛍光も検出されにくくなります。例えば、Cy5がある一定のサイクル以上でも検出されなかった(つまりウイルスRNAが検出されなかった)としても、一概に検体が陰性であるとは言えません。なぜなら、サンプルそのものの量が少なかったり、あるいは劣化しているなど、そもそもサンプル量が不足している(つまり、FAMの強度も低い)ために検出できなかった可能性があります(偽陰性※2)。このように、サンプル自体に問題が無いことを確認するため、内在性コントロールが使用されます。
※2偽陰性
偽陰性とは、コロナウイルスがサンプル中に存在するにも関わらず、サンプルの問題(劣化、量の不足)や、手技などにより、コロナウイルスが検出されず、陰性と判断されることを言います。偽陽性は偽陰性とは逆に、サンプルにはコロナウイルスが存在しないにも関わらず、何らかの理由によりサンプル中にコロナウイルスが検出され陽性と判断されることです。
SARS-CoV-2のPCR検査を行う上では、リアルタイムPCR装置や研究用試薬(または体外用診断薬)のほか、ピペットやスピンダウン用の遠心機、PCRチューブ、ピペット、安全キャビネットなどが必要です。弊社ではコロナウイルス検査にご使用いただけるこれらの製品も提供しております。
詳しくは以下のページをご覧ください。
ワケンビーテック株式会社 企画推進部