アプリケーションノート自動ライブセルイメージングシステム
NK-92細胞媒介性細胞毒性の評価:Celloger Proを用いた浮遊性および接着性がん細胞の比較分析
固形腫瘍細胞は主に接着状態で存在しており、特定の組織に付着して、乳がんや肺がん、直腸がんなどのがんの発症を引き起こします。しかし、がん細胞の中には、接着性を失って上皮間葉転換(EMT)し、血中循環腫瘍細胞(CTCs)となるものがあります。この転換は、がん細胞の運動性や侵襲性を高め、血流への侵入やがん転移の促進へと繋がります。1, 2
ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫系において、異常細胞を同定し、排除するという重要な役割を担っています。NK細胞の重要な機能の一つが、主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスⅠ分子の発現が低下した細胞(多くの腫瘍細胞の特長)を標的にすることです3, 4。特に、CTCsはMHCクラスⅠの発現レベルが低く、またMHC阻害リガンドが欠如しているため、NK細胞媒介性細胞毒性の主なターゲットとなっています4。
CTCsは固形腫瘍細胞と同じ原発性腫瘍細胞から生じますが、細胞外マトリックス(ECM)から分離するため、直接免疫系に曝露します。結果的に、主に微小環境による違いから、CTCsは接着性腫瘍細胞と異なった機能的特長を示します5。これらの差が、NK細胞媒介性細胞毒性に対する感受性に影響を与えていますが、その関連性についてはまだ研究段階にあります。
今回、Celloger Proを用いて、固形腫瘍細胞の生理状態(接着状態または浮遊状態)がNK細胞媒介性細胞毒性に対しどのような影響を与えるのかを調べました。Celloger Proは、高解像度のタイムラプスイメージング機能を備えており、腫瘍-免疫の相互作用をリアルタイムで可視化できるため、細胞毒性メカニズムの研究や、先進的な免疫治療における有用なツールとなります。
標的細胞の調製と染色
U-2OS細胞を標的細胞とし、2つの条件(接着状態または浮遊状態)で実験を行いました。
接着状態についてはU-2OS細胞を48ウェルプレートに3×104/ウェルの濃度で播種し、37℃で24時間インキュベートしました。次に、3µMのCellTracker Green CMFDA(Invitrogen, C2925)を使用し、血清フリーの培地中(37℃、30分)で染色した後、血清フリーの培地で細胞を洗いました。浮遊状態においては、分離したU-2OS細胞を同様の条件下で染色し、染色後すぐに同じ濃度で48ウェルプレートに播種しました。
共培養および生細胞染色
調製後、U-2OS細胞とNK-92細胞(作用細胞)を、作用細胞対標的細胞の比が5:1、10:1、20:1になるように共培養を行いました。細胞の生存率を評価するため、4µMのEthidium Homodimer-1(EthD-1)(Sigma, 46043-1MG-F)を加え、イメージング前に15分間室温でインキュベートしました。
ライブセルイメージングおよび分析
Celloger Pro(4×)を用いて、1時間ごとに24時間タイムラプスイメージングを行いました。画像分析は、Celloger Proソフトウェアを使用し、緑色蛍光(生細胞)および赤色蛍光(死細胞)を定量化することで、NK細胞媒介性細胞毒性の評価を行いました。
NK-92を作用細胞、U-2OSを標的細胞として、NK細胞媒介性細胞毒性の分析を行いました。標的細胞の状態(接着状態または浮遊状態)が、NK-92細胞媒介性細胞毒性に対してどのような影響を与えるのかを調べるため、U-2OS細胞を接着および浮遊の状態で調製しました。接着状態においては、U-2OSを播種し、24時間培養後に緑色蛍光を発するCellTracker CMFDAにて染色を行いました。浮遊状態においては、細胞を分離し、染色した後、速やかに播種しました。それぞれの細胞にNK-92とEthD-1(死細胞のDNAに結合すると赤色蛍光を発する色素)を加えました。これにより、NK細胞による細胞毒性と標的細胞の生存率の評価が可能となります。
Celloger Proを使用し、1時間ごとに24時間、タイムラプスイメージングを行いました。これにより、NK-92細胞媒介性細胞毒性および細胞間相互作用について、連続したモニタリングが可能となりました。Celloger Proを使用したイメージングで、NK-92細胞活性には時間依存的な差が見られ、また細胞毒性については接着状態と浮遊状態の間に明らかな違いが見られました。(Figure 1)
接着状態では、U-2OS細胞からの緑色蛍光は、作用細胞対標的細胞(E:T)率が増加するにつれて減少しました。特に高い比率(20:1)の場合、NK-92細胞は標的細胞の周囲に広範囲に集まり、その結果として赤色蛍光の増加や細胞毒性が増強しました(Figure 2A)。浮遊状態においても、同様のパターンが見られました。E:T比が20:1のとき、NK-92細胞は標的細胞の周囲へ速やかに集まり、それにより緑色蛍光が急激に減少し、それに応じるように赤色蛍光が強くなりました。これは、細胞毒性が高まったことを示唆しています(Figure 2B)。NK細胞媒介性細胞毒性を定量的に評価するため、赤対緑蛍光強度比を24時間にわたり測定しました。この分析により、接着と浮遊状態の両方において、時間およびE:T比依存的に細胞毒性活性が強くなることが分かりました(Figure 2C, 2D)。
接着/浮遊U-2OS細胞それぞれのNK-92媒介性細胞毒性に対する反応を比較するため、10:1比のものでタイムラプスイメージングを行い、0、12、24時間後のタイミングで緑色蛍光および赤色蛍光の分布について観察を行いました(Figure 3A)。接着状態では、U-2OS細胞からの緑色蛍光は時間とともに徐々に減少しており、これは、細胞の生存率も減少したということを示しています。それに対し、浮遊状態においては、急速かつ顕著な細胞毒性の発現が見られました。12時間が経過するまでに急激な緑色蛍光の減少と、赤色蛍光の大幅な増加が見られました。これは、NK-92細胞が媒介する細胞毒性が活性化されていることを示しています。赤対緑色蛍光比は、同じ10:1比であっても、浮遊状態の方が接着状態と比較してより急速に増加し、またより高い値を示したように(Figure 3B)、この傾向は定量的に確認されました。これらの結果は、急激な緑色蛍光の消失と赤色蛍光の大幅な増加で示されるように、浮遊状態のU-2OS標的細胞はNK-92細胞媒介性細胞毒性に対し、より感受性が高いことを示しています。
生細胞を視覚化するため、U-2OS細胞をCMFDA緑色色素で染色し、死細胞はEthD-1で染色しました。
(A, B)NK-92細胞を接着状態のU-2OS(A)および浮遊状態のU-2OS(B)と共に培養しました。複数のE:T比率(5:1, 10:1, 20:1)に対し、24時間タイムラプスイメージングを行いました。なお、標的細胞のみで培養したものをコントロールとしました。スケールバー=200µm
(C, D)接着状態のU-2OS(C)および浮遊状態のU-2OS(D)における赤対緑色蛍光強度比。
Celloger Pro分析ソフトウェアを使用し、定量分析を行った。
Figure 3. 接着状態と浮遊状態のNK細胞媒介性細胞毒性の比較分析(E:T比=10:1)
(A)0、12、24時間におけるNK-92細胞毒性の進行を示すタイムラプスイメージング
(B)接着状態および浮遊状態のU-2OS細胞における赤対緑色蛍光強度比の比較グラフ。強度データはCelloger Pro分析ソフトウェアを使用して分析
このアプリケーションノートでは、浮遊状態のU-2OS細胞は接着状態のU-2OSよりも、NK-92細胞媒介性細胞毒性に対し、より高い感受性を示すことが明らかとなりました。この違いには、幾つかの要素があると考えられます。細胞の接着は、NK細胞活性リガンド発現の制御において重要な役割を果たしており、NK細胞の認識や標的性に影響を与えます6。また、浮遊状態の細胞は、機能性表面分子が高い密度で曝露されているため、これがNK細胞との相互作用を促進し、免疫反応に対する感受性が高くなっています。接着状態と浮遊状態の細胞間での代謝の相違も、この感受性の差に影響を与えている可能性があります7, 8。(なお、これについては骨肉腫において、さらなる研究が必要です)
Celloger Proを使用し、2色の蛍光を使用したアプローチにより、リアルタイムでの細胞生存率の視覚化、定量化を効果的に行うことができました。このシンプルかつ信頼性のある細胞毒性評価法は、NK細胞免疫療法研究に対し、Celloger Proのパワフルなツールとしての可能性を示唆しています。
Celloger Proは、免疫細胞の相互作用と標的細胞の生存率を高解像度でリアルタイムにイメージングできるため、免疫腫瘍学の先進的な研究における有用なツールとなります。
※本資料は、Curiosis 社の許諾を得て、ワケンビーテック社(弊社)が英語の原文資料を日本語に翻訳したものです。
Curiosis社や弊社の許諾なく複製、転載などを行うことはお控えください。