アプリケーションノート自動ライブセルイメージングシステム
NK細胞活性のリアルタイムモニタリング:Celloger Proと最適化した染色試薬を用いた新しいアプローチ
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、自然免疫において重要な役割を担っている免疫細胞で、事前に感作していなくても悪性細胞やウイルス感染細胞を認識し、排除する能力を持っていることが知られています。1
NK細胞療法の有効性を評価することは前臨床試験段階で重要であり、またそれには主にNK細胞Killingアッセイが行われます。このアッセイでは、NK細胞と蛍光標識した標的細胞を同時に培養し、結果的に起こる細胞溶解の程度を細胞障害活性の指標として、NK細胞の細胞毒性を測定します。この結果の定量化には、フローサイトメトリーや、蛍光顕微鏡が一般的に用いられており、NK細胞の最適化や確認に重要であるNK細胞機能の正確な評価を行うことができます。
NK細胞療法における近年の進歩、特に腫瘍細胞への標的性と傷害性に優れたキメラ抗原受容体導入NK(CAR-NK)により、がん治療における正確なアッセイの必要性が拡大してきました。2, 5。しかし、NK細胞Killingアッセイの正確性は、技術的な問題(Calcein-AM(標的細胞の染色に一般的に使用される色素)の急速な漏出)により損なわれることがあります。Calcein-AMは細胞の機能自体に大きな影響を与えない蛍光標識として知られており、顕微鏡法やフリーサイトメトリーなど様々な分析手法におけるスタンダードなツールとなっています。しかし、特定の細胞株においては、Calcein-AMの著しい漏出が報告されており、その信頼性に懸念がもたれています。6, 7
Curiosis社で実施した、Calcein-AMを用いたNK細胞Killingアッセイにおいても同様の問題が見られました。Calcein-AMの漏出により、NK細胞の活性に関わらず全体的な細胞計数量が低下することで、NK細胞介在性の標的細胞死を正確に評価することが難しくなっていました。この問題に対応するため、Calcein-AMに比べて漏出性が低く、また細胞内での保持性がより高いCellTracker CMFDA(緑色蛍光色素)を使用しました。8
これにより、NK細胞の細胞傷害性のより正確なモニタリングや分析が可能となりました。
このアプリケーションノートでは、より正確かつ効果的に、リアルタイムでNK細胞の細胞傷害性を分析するための手法をご紹介します。この方法は、最適化した染色試薬と、自動ライブセルイメージングシステム Celloger Proを使用して行います。
当実験において、U-2OS細胞を標的細胞として使用し、次の3種類の異なる条件で細胞を調製しました。
染色が必要な細胞は、無血清培地を使用し、染色試薬を含む溶液中にて37℃、30分間インキュベートし、その後洗浄しました。安定的にEGFP標識H2Bを発現するU-2OS細胞については、染色を行いませんでした。調整後、標的となる細胞を3×104/ウェルの濃度で47ウェルプレートに播種し、NK-92(作用細胞)とU-2OS(標的細胞)の比(E:T)がそれぞれ5:1、10:1、20:1の比率となるようにして、共培養を行いました。細胞の生存率は4µM Ethidium homodimer(EthD-1)(Sigma, 46043-1MG-F)を加え、1時間おきに24時間、Celloger Pro(4倍レンズ)にて画像を撮影することにより評価しました。結果をCelloger Analysisソフトウェアを使用して分析し、緑色および赤色蛍光の強度をもとにNK細胞の細胞傷害性の評価を行いました。
作用細胞としてNK-92、標的細胞としてU-2OSを用いて、NK細胞の細胞傷害性を分析しました。がん細胞の転移状態を再現するため、NK-92と共培養を行う前に、U-2OS(固形腫瘍の特長を有する接着性の細胞)を剥がし、培地中に懸濁しました。懸濁したU-2OSを使用し、NK-92細胞介在性の細胞傷害性評価を行うことで、NK細胞が転移がん細胞を標的とし、破壊するメカニズムの解析を行いました。
まず、DNAに結合した緑色蛍光タンパク(GFP:H2B)を安定的に発現するU-2OS細胞を用いてNK細胞Killing アッセイを行いました。U-2OSに対するNK-92の細胞傷害性について、Celloger Pro(×4)を用いて24時間リアルタイムで観察を行いました。作用細胞:標的細胞比(E:T)が大きくなるにつれて、赤色蛍光の強度(つまり細胞死)の増加と、緑色蛍光強度の低下が見られました。また、NK-92とU-2OSにより形成される細胞塊サイズの増加も見られました(Fig. 1A)。これは、作用細胞の濃度が増加すれば標的細胞との相互作用も増加し、結果として細胞塊サイズが大きくなり、またより多くの細胞が破壊されたことを示唆しています。NK細胞による細胞死の定量化を行うため、Cellger Analysisソフトウェアを使用して赤色および緑色蛍光強度を測定し、赤色/緑色蛍光比を算出しました。結果として、標的細胞の細胞死が、E:T比に比例して増加することが認められました(Fig. 1B)。
GFPを発現するU-2OSのような安定した細胞株を使用することで、長時間のモニタリングに対して正確性の高い結果が得られます。しかし、これらの細胞株を調製する過程にはいくつかの欠点もあります。安定的にGFPを発現する細胞株を得るため、何度も遺伝子組み換えを行い、選別を行わなければならず、これには多大な時間と労力を要します。こういった要素が、ハイスループットや繰り返し行う実験における非効率性の原因となっています。また、この細胞株の作成や維持にはリソースや専門知識が必要なため、特に早く結果を得たいような場合にはあまり実用的ではありません。このため、Curiosis社は、NK細胞Killingアッセイにおいて信頼性のある結果が得られ、かつ迅速に試験を行うことができる生細胞染色色素を用いた代替法の検討を行いました。
2種類の染色試薬(Calcein-AMとCellTracker CMFDA)を使用してU-2OSを染色し、またそれぞれの染色に対し、複数のNK細胞比率で共培養を行いました。NK細胞の比率が増加した際、GFP発現細胞株と同様の結果(赤色蛍光強度の増加、緑色蛍光強度の低下、細胞塊の形成)が見られました(Fig. 2A, 2B)。しかし、Calcein-AMで染色したU-2OS細胞の蛍光強度は、特にE:T比が10:1の場合において、異常な増加を示しました(Fig. 2C)。これは、標識した細胞からCalcein-AMが急速に漏出したことが原因だと考えられ、これにより、生きた標識細胞数が時間とともに大幅に低下し、細胞死率が過剰に高くなりました(Fig. 3A, 3B)。この色素の漏出が、標的細胞を長時間モニタリングして生存率を定量化する際の正確性に影響を与え、細胞死を評価する際における一貫性の維持を困難なものとしています。
一方、CellTracker CMFDAは、Calcein-AMに比べて細胞内の保持性が高く、12時間以上に渡って緑色蛍光を発しました(Fig. 3A, 3B)。多少の漏出は見られたものの、Calcein-AMに比べると極めて僅かでした。これにより長時間の正確なNK細胞の傷害性モニタリングが可能となりました。また、赤-緑の蛍光比の不自然な増加が明らかに減少しており、CellTracker CMFDAがこれらのアッセイにおけるより信頼性の高い選択肢であることがわかりました(Fig. 2C)。
Figure 1. GFP:H2B発現U-2OSによるNK-92 Killingアッセイ
(A)NK-92細胞と、GFP:H2Bを発現するU-2OSを、5:1、10:1、20:1の比率(E:T)で共培養しました。Celloger Pro(4X)を用いて、1時間おきに24時間画像を撮影しました。
(B)GFP:H2B 発現U-2OSの蛍光強度比(赤/緑)のグラフ(24時間)。
Fiugure 2. 染色したU-2OSを使用したNK-92 Killingアッセイ
(A, B)NK-92細胞とCalcein-AM(A)およびCellTracker CMFDA(B)で染色したU-2OS細胞を、E:T比率5:1、10:1、20:1で培養。Celloger Pro(4X)を用いて24時間、1時間おきに撮影した画像。(C)Calcein-AMおよびCellTracker CMFDAで染色したU-2OS
Figure 3. CellTracker CMFDAとCalcein-AMの色素保持時間の比較
(A)U-2OS細胞におけるCellTracker CMFDAとCalcein-AMの色素保持時間の比較(24時間)
(B)正規化した緑色蛍光強度のグラフ。CellTracker CMFDAとCalcein-AMの時間経過による色素保持状況の比較。
本試験において、Curiosis社は、歴史的に放射性クロミウム(51Cr)によるラベルやMTTおよびLDH測定法に頼っていた従来のNK細胞の細胞障害性アッセイ4の代替法について検討を行いました。従来の方法はよく確立されたものではあるものの、1点の時間でしか細胞障害性を測定できないことや、放射性物質の取り扱いリスクの問題がありました。この問題に対処するため、Curiosis社は蛍光色素を用いて標的細胞を標識し、Celloger Proを用いて赤/緑蛍光強度比を分析することにより、標的細胞の溶解についてリアルタイムでモニタリングを行いました。
ここで得られた知見で、Celloger Proを用いた方法は、従来のMTTおよびLDH測定法などを上回るいくつかのメリット(リアルタイムでモニタリングができる、直接観察できる、など3)を有することが分かりました。このアプローチでは、形態変化および細胞死プロセスの情報が得られることで、1つ1つの細胞レベルでの変化をより深く理解できるため、細胞障害性研究の正確性が高まります。
この実験では、CellTracker CMFDA色素で染色したU-2OS細胞は、Calcein-AMに比べて保持率が高く、色素漏出による精度の低下を最小限に抑えられることが示されました。また、GFPを安定的に発現する細胞を調製することに比べると、CellTracker CMFDAの使用には大きな柔軟性があり、細胞株調製のために必要な、技術的に難しく、時間のかかるプロセスを避けることができました。この柔軟性により、CellTracker CMFDAを用いる方法は、様々な実験においてメリットをもたらすでしょう。
ただし、NK細胞 killingアッセイの結果は、標的とする細胞の種類によって異なる可能性があることに留意しなければなりません。従って、標的細胞の性質に合わせ、染色色素と濃度を最適化し、最大限に精度や信頼性の高い結果を得られるようにすることが重要です。
※本資料は、Curiosis 社の許諾を得て、ワケンビーテック社(弊社)が英語の原文資料を日本語に翻訳したものです。
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