アプリケーションノート自動ライブセルイメージングシステム
細胞分裂時のアクチンフィラメント変化の観察
Celloger Proを使用
細胞質分裂は細胞分裂の最終段階に起こる現象であり、このとき、一つの細胞の細胞質が物理的に分かれ2つの独立した細胞となります。アクチンフィラメントは、細胞の形態維持や分裂の促進において重要な役割を果たしています。細胞分裂の直前、アクチンフィラメントは細胞膜を収縮させ、2つの娘細胞の形成を促します1。
細胞分裂や細胞運動の研究によく使用されるサイトカラシンBは、アクチンフィラメントの構造や動態に大きな影響を与えます。主に収縮性マイクロフィラメントの形成を妨げることで、細胞質分裂を阻害します。興味深いことに、サイトカラシンBは、同じ薬剤であるにも関わらず、異なる濃度で使用すると細胞の挙動に対し違った効果を示します。高濃度の場合、アクチンケーブルの収縮や線維芽細胞の凝集など、細胞の形態変化を誘発します2。一方で、低濃度の場合は、全体的な形態には変化を引き起こさず、細胞の遊走やラフリング(細胞膜の波打ち)を阻害します3。また、以前の研究により、サイトカラシンBは不完全な細胞分裂を引き起こし、多核細胞を形成させることが分かっています4。このアプリケーションノートでは、Celloger Proを用いて、サイトカラシンBで処理した際の細胞構造のダイナミックな変化を示すことを目的としています。
細胞分裂時に、サイトカラシンBによって引き起こされるアクチンフィラメントのダイナミックな変化や構造的特徴を知るため、 tdTomatoで標識されたアクチンを安定的に発現するHela細胞を使用し、ウェルあたり2.5×104の濃度で24ウェルプレートに播種しました。オーバーナイトでインキュベートした後、1.25µM(低濃度)と10µM(高濃度)の濃度のサイトカラシンBで処理しました。10×レンズを装着したCelloger Proで1時間おきに48時間イメージングを行いました。最後に、高濃度で処理したグループを除く全てのサンプルについて、細胞核を1µMのSYTO9(Invitrogen, S34854)で染色しました。得られた画像は解析のためトリミングを行いました。
コントロールグループでは、通常の細胞分裂の過程を経て2つの細胞から4つの娘細胞に分裂しました(図1上段)。一方、低濃度のサイトカラシンBで処理した細胞は、膜分裂が完了せず、1つの細胞に複数の核がある多核細胞が形成されました(図1中段)。高濃度のサイトカラシンBで処理した細胞では、アクチンフィラメント構造の著しい分断が見られ、不可逆的な細胞の円形化が引き起こされました(図1下段)。多核細胞の数は、コントロールグループよりも、低濃度のサイトカラシンBで処置したグループで多く見られました(図2)。
図2. 低濃度サイトカラシンBによる多核細胞形成
コントロール(n=564)とサイトカラシンB処理サンプル(n=493)において、無作為の9点で、それぞれ全細胞数と2つ以上の核を有する多核細胞を数え、多核細胞の割合を「多核細胞数/全細胞数」にて算出した。
***P < 0.001
細胞内のアクチンフィラメントは細胞の構造だけでなく、細胞の複製や分裂において重要な役割を果たしています。リアルタイムライブセルイメージングは、様々な細胞の動きやアクチンフィラメントの重合を抑制するサイトカラシンBなどの薬剤への応答をモニタリングする上で必須の手法です。特に、濃度によって効果が異なる薬剤を用いた実験で、各濃度に対して多数の画像を取得するのは大変な作業です。このプリケーションノートで行った実験では、Celloger Proのマルチポジションイメージング機能やレンズを簡単に交換可能といった特長を活かし、高倍率でアクチンの動態を観察することができました。
翻訳・文責:ワケンビーテック株式会社 企画推進部
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