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バイオハザード物質漏洩時の対応

科学的研究や医療のために、ラボや医療施設、またその他様々な状況では日常的にバイオハザード物質が使用されています。しかし、そういった物質に関連する潜在的なリスクは、決して軽視することはできません。それらの物質を誤ってこぼしてしまった場合、速やかに、かつ適切に処理しなければ、環境や健康に対し大きな被害を及ぼす可能性があります。そのため、バイオハザード物質漏洩時に人員や環境の安全を保護するためのプロトコル、つまり物質漏洩時の対処法をまとめておくことが重要です。この記事では、バイオハザード物質漏洩時の対処法の重要性や、キーとなる内容のほか、バイオハザード物質漏洩を抑える方法や効率的に管理する方法を説明しています。

漏洩物の封じ込め

研究技術者、医療従事者者、またそれ以外の職種でバイオハザード物質の漏洩管理を知りたい人にとって、この情報は健康や安全の保護に重要です。

処理キットを準備する

バイオハザード物質を扱うエリアには、バイオハザード物質が漏洩した場合にすぐに使えるよう処理キットを備えましょう。これらのキットには漏洩物質を封じ込めるためのアイテムや保護具を入れておきます。また、内容物は物質やエリアごとの要求事項に合わせてカスタマイズしてください。これらのキットはすぐに使用できる場所に設置し、また各人員に対し、場所と使い方を予め周知しておきます。



  • コンテナ:約4L程度のプラスチックバケツ。この中に必要物を入れておく。
  • PPE(保護具)
    • 飛沫防止ゴーグル(2つ以上)
    • ニトリル手袋(2双以上)
    • シューズカバー(2足以上)
    • ディスポーザブルのガウン(保護衣)、エプロン、作業着(各2着以上)
  • 吸着剤
    • ペーパータオル
    • 吸収用のパッド、漏出物の広がりを防ぐソックス
    • ピロー
    • 吸着剤
  • 清掃用具および資材
    • バイオハザードバッグ(3枚以上)
    • バイオハザードラベル
    • 尖ったものを掴むための火ばさみまたはトング
    • 濃度の濃い次亜塩素酸と空のボトル
    • 鋭利なものを入れる容器
    • ほうきとちりとり

注記:消耗品は適切なものを選択してください。また、汚染物に直接触れるものはバイオハザード汚染物質として取り扱ってください。

リスクアセスメントを実施する

漏出インシデントにおける潜在的なリスクを管理する上で、漏出物に関するリスクアセスメントを行うことが重要です。この項目では、リスクアセスメントを行う際の一般的な方法をお示ししています。


  • 危険の特定:使用するウイルスやバクテリア、毒物、その他有害な生物学的物質のリストを作成する。
  • 被害を受けやすい人の特定:従事者、初期対応者、その他の人間も含めた、リスクのある個人やグループを特定する。
  • 曝露ルートの分析:漏出した物質に対し、人がどのように接触するかを特定する。(例:吸入、誤飲、接触など)
  • 清掃、封じ込め作業時の曝露の可能性を評価する。
  • 重大性の決定:曝露した際の健康への影響の重大性(傷病の重度、罹病期間、致死率などを含む)を決定する。
  • 環境への影響(水源や生態系への影響)を検討する。
  • 発生確率の評価:漏出の起こる可能性を評価する。評価に当たっては、当該物質を扱う頻度や封じ込めの有効性、ヒューマンエラーなどを考慮すること。
生物学的物質漏出処理のための包括的ガイドライン

ガイドラインは、漏出したバイオハザード物質を素早く、効果的に、かつ安全に処理する方法を示す重要な指針です。ガイドラインには、予防や封じ込めのほか、適切な廃棄方法やリスクアセスメントに至るまでの様々な重要な情報が含まれます。

全ての漏出物に対する一般的な事項
  1. 清掃を行った後、石鹸と水で手と顔をよく洗いましょう。
  2. 清掃を始める前に、手袋、保護衣、ゴーグルを装着しましょう。
  3. 10%次亜塩素酸がよく除染剤として用いられます。汚染された場所は、次亜塩素酸ナトリウムで20-30分除染します。ただし、扱っている物質に合わせて推奨される時間や除染剤を使用してください。
  4. 清掃で出た廃棄物は、バイオハザード廃棄物として、速やかに専用のコンテナに廃棄します。
  5. いかなる漏出に関しても管理者に報告します。
漏出物が血液の場合

血液やその他有機物が多く含まれる物質、感染性微生物が少量含まれる物質を処理する際は次の手順で行います。


  1. グローブ、ゴーグル、保護衣を装着します。
  2. ペーパータオルで血液を拭き取り、バイオハザードバッグへ廃棄します。鋭利なものを掴む際は、トングまたは火ばさみのようなものを利用し、専用の廃棄容器へ廃棄します。
  3. 除染剤を使用し、残っている血液を全て取り除き、除染します。
  4. 10%次亜塩素酸をスプレーし、15分間放置します。
  5. 15分後、除染剤を含ませたペーパータオルで拭き取ります。
  6. 除染作業で出た廃棄物および保護具を全てバイオハザードバッグに入れます。
  7. 手をよく洗い、除染を完了します。
安全キャビネット内で漏出した場合
  1. 処理作業中、キャビネットは運転状態にしておきます。また、処理終了後も10分間は稼働させてください。
  2. 一般的な処理方法に従って処理を行います。
  3. 汚染したエアロゾルが外部に拡散しないよう、処理に使用したものはキャビネット内で保管します。
  4. 漏出エリアを広げないよう、また、前面のエアバリアを妨げないよう、最大限の注意を払い、慎重に作業を行ってください。
  5. きれいな布と除染剤を使用して、ワークエリアの表面を清拭します。腐食性のある除染剤を使用した場合、70%エタノールを使用して残った除染剤を完全に除去してください。
  6. 中程度から高リスクの物質が漏出した場合、キャビネットの下の受け皿(トレイ)を消毒液で満たしてから、拭き取りを行ってください。
安全キャビネット外で漏出した場合

安全キャビネット外で漏出が起こった場合は、エアロゾルが発生するため、より危険な状態になります。処理の方法や安全のための予防の程度については、漏出物のバイオハザードリスク分類により異なります。

漏出物がBSL 1 の場合

  1. ペーパータオルを除染剤に浸してから、汚染エリアに被せます。直接除染剤を噴霧するとエアロゾルが発生するおそれがありますので、除染剤を直接噴霧してはいけません。
  2. 割れたガラスなどがある場合は、ピンセットやトング、火ばさみなどでこれを取り除き、専用の廃棄容器に廃棄します。
  3. 使い捨てのタオルや吸収パッドなどを使用して除去作業を行います。鋭利なものが残っている場合はピンセット、トング、火ばさみなどを使用してください。
  4. 同じエリアで同じ作業を再度行います。

漏出物がBSL 2 の場合

  1. 他に誰かが漏出エリアにいる場合、その全員に汚染物の漏出があったことを伝えます。
  2. 室内に安全キャビネットまたはヒュームフードがある場合、それらを稼働させたままにして、速やかに室外へ退避します。全員が退避した後、扉をしっかりと閉め、鍵をかけます。
  3. 誰かが入室したり、室内の汚染物質が室外に広がらないよう、「バイオハザード」が発生中である旨や、「入室禁止」の張り紙を扉に掲示します。
  4. 管理者や安全管理部門へ連絡します。
  5. 汚染された衣類を脱ぎ、除染します。必要な場合はオートクレーブにかけてください。また、必要な場合は近くにある緊急用のシャワーで体を洗います。
  6. 室内に再度入室する場合、液滴が安定してエアロゾルが消えるまで30分待ってから入室します。
  7. 入室する場合は保護具(長袖の防護服、使い捨て手袋、ゴーグル、フェイスシールド、使い捨てシューズカバー)を装着してください。
  8. 飛沫に曝露された装置や汚染エリアを隔離します。
  9. 汚染物質が広がる可能性がある場合は吸収剤などを使用し、拡散を防止します。
  10. 漏出エリアの端に静かに除染剤を垂らします。
  11. 除染剤を染み込ませたペーパータオルを汚染エリアに被せ、適当な時間その状態にして汚染物質の除染を行います。
  12. 処理を行う場合は、汚染エリアの端から内側に向かって行います。
  13. 汚染エリアや装置を除染剤を使用して再度除染します。20-30分除染剤は適切な時間汚染エリアに接触(反応)させてください。
  14. 腐食作用のある除染剤を使用した場合など、必要な場合には70%エタノールを使用して残留した除染剤を除去してください。
遠心機内で漏出した場合
  1. 処理を始める前に、処理キットの中身が揃っていることを確認します。
  2. エリアから全員を退避させます。エアロゾルが落ち着くまで30分待ってから処理を始めます。
  3. 処理中は、保護衣、ゴーグル、適当な呼吸用保護具、手袋を着用してください。
  4. ローター、バケットを外し、近くの安全キャビネット内に移動させます。これらの内容物は、後ほどしっかりと除染してください。
  5. 遠心機の内部をガイドラインに従って除染します。
  6. 除染終了後、汚染された破片などが残っている場合、廃棄物容器に廃棄し、廃棄前にオートクレーブにかけてください。
結論

生物学的物質が漏出した場合の効率的な封じ込めや管理には、予防や迅速かつ組織的な対応、定められた手順やルールに従うことが必要です。これらの方法を実行することで、ヒトの健康や環境への被害の可能性を最小限に抑えることができ、また、漏出い伴うリスクを効果的に管理することができます。

参考資料

University of Toronto Environmental Health and Safety. (n.d.). Biological Spills.
https://ehs.utoronto.ca/ourservices/biosafety/biological-spills/

University of Pittsburgh Environmental Health and Safety. (n.d.). Biological Spills.
https://www.ehs.pitt.edu/biological-spill#:~:text=Minor%20Biological%20Spills,Alert%20people%20in&text=Remove%20and%20disinfect%20any%20material,equipment%20for%20the%20cleanup%20operation.


本記事は、ESCO社の作成した記事 "Biohazard Spill Management: Ensuring Safety First" (クリックすると外部サイトへ移動します)を、ESCO社の許諾を得てワケンビーテック株式会社が日本語に翻訳したものです。英語原文と日本語訳の間に内容の相違がある場合は英語原文の内容が優先します。