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タイムラプスインキュベーターでできること

30年以上の経験を有するエンブリオロジストであるDiana Stein氏は、イスラエルにあるLaniado Hospital(Sanz Medical Center)のラボ管理者であり、またMIRIタイムラプスインキュベーターの利用者でもあります。Diana Stein氏が培養2日目の朝、いくつかの胚を簡単に観察した際、ある胚が、より成長しており、かつまた僅かに良好な形態であったことから、その胚を使おうと考えました。
しかし、タイムラプスインキュベーターの画像を確認した後、彼女はその胚が2から5細胞へダイレクト分割したことに気づき、別の胚を使うことにしました。最初の胚は、そのまま培養を続け、4日目にガラス化して保存しました。

この胚を使用したことで、その研究で良い結果を得ることができました。Diana Stein氏は、この経験をこれまで経験した多くの「なるほど」の一つだと考えています。

当初、形態スコアが良かったために移植することが決定されていた胚をタイムラプスビデオで確認したところダイレクト分割が見られました。そのため、別の胚を移植することとなりました。これは、タイムラプスインキュベーターを使用していたからこそ上手く対応できたといえるでしょう。

従来の胚スコアリングの限界

従来の胚分類は、移植前発達段階における、予め定められた数個の観察ポイントでの胚の形態のみをスコアリングします。この方法には、観察点間において、どういったことが起こったのかという情報が欠けています。従って、従来のスコアリング方法では、移植する胚の状態評価に影響する異常分割が見落とされる可能性があります。タイムラプスによる継続的なモニタリングは、胚の発生動態の完全な情報を収集する方策となります。

胚観察のタイミングのイメージ:上から一般的な観察・タイムラプス・タイムライン

固定タイミングでの一般的な観察において見逃されるものは何か?

タイムラプスインキュベーターを使用することにより、胚の発達過程での全ての重要な出来事を適切に評価し、また補足的な情報を得ることが可能です。「異常分割」は、いつでも起こりうるだけでなく、複数回発現する可能性もあり、その大半は観察点と観察点の合間に発現します。胚発達の1日目と2日目の間でよくみられる例は次の通りです。

  • ダイレクト分割(DCL):35.1hpi(26.88~47.29hpi)以内に発現し、そのうち91%が26.88~41.8hpiの間に発現
  • リバース分割(RCL):37.1hpi(22.42~59.97hpi)以内に発現し、そのうち82%が22.4-41.5hpiの間に発現
  • 多核:32hpi(27~37hpi)以内に発生
  • 前核変化:最初の前核チェックの後に発生(時間や期間は様々、2PN→3PNまたは1PN、3PN→2PNまたは1PN)

これらの「異常」な現象は、染色体異常を引き起こす可能性があります。

ダイレクト分割(DCL)

Rubio他による後ろ向き研究(2012年)で、2細胞から3細胞のダイレクト分割(一名DC2-3)で、通常分割パターンの胚よりも統計的に良い結果が得られないことが証明されています。胚全体の約14%(5,225例のうち715例)にダイレクト分割が発現しており、これは重要な形態動態パラメータだと考えられます。¹

リバース分割(DCL)

細胞数の減少が確認された開裂期の胚は、リバース分割または胚割球融合と呼ばれるプロセスを経たと言われています。大半のケースでは、胚の2つの割球が融合し、2つの核を持つハイブリッド細胞となります。

 

Liu他による研究(2014年)では、最初の3回の分割の間に、約27.4%の胚でリバース分割が発現しました。²

多核

様々な研究で、多核が胚の成長を阻害することが示されています。このため、多くの胚評価システムでは、多核の検出が重要なパラメータとなります。しかし、多核は発達段階の様々なタイミングで発現したり、また極めて短時間で消失することもあるので、従来のスコアリング方法では見落としてしまうおそれもあります。³
タイムラプス顕微鏡を用いることで、細胞分裂時の中間点など、見落とされがちな胚の発生動態の完全な情報を収集することが可能となります。

参考文献

¹Rubio, I., Kuhlmann, R., Agerholm, I., Kirk, J., Herrero, J., Escriba, M.-J., . . . Meseguer, M. (2012). Limited implantation success of direct-cleaved human zygotes: a time-lapse study.

²Liu, Y., Chapple, V., Roberts, P., & Matson, P. (2014). Prevalence, consequence, and significance of reverse cleavage by human embryos viewed with the use of the Embryoscope time-lapse video system.

³Ergin, E. G., Caliskan, E., Yalcinkaya, E., Oztel, Z., Cokelez, K., Ozay, A., & Ozornek, H. (2014). Frequency of embryo multinucleation detected by time-lapse system and its impact on pregancy outcome. Eurofertil IVF Center, Istanbul, Turkey: Fertility and Sterility® Vol. 102, No. 4.


本記事はESCO Medical社のWebサイトで公開されている「What are you missing without Time-Lapse?」(英語)を、ワケンビーテック株式会社がESCO Medical社の許諾を得て日本語訳したものです。
製品に関する詳細情報は以下のリンクから製品ページにてご確認ください。