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Application:PCRの準備 PCR Preparation

はじめに

今までに見いだされた最も強力な実験技術の1つであるポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction: PCR)は、特定のDNA配列を増幅する試験管内(in vitro)技術です。この技術は、二重鎖DNAがまず変性して1本鎖DNAになり、そして複製されるというプロセスを繰り返して複数のコピーを得るという、体内(in vivo)での複製機構に基づいています。PCRは、指数関数的反応であるために高感度で高特異性があり、高収量の目的DNAを得ることが可能で、また非常に少量の特定のターゲットを正確に検出することができます。
 
一般的なPCRの操作の流れには次の3ステップがあります。

  • ターゲットとなる基質の選択:ターゲットDNAの選択を実験ごとに決定します。決定したDNA配列をもとにプライマーが設計され、結合特異性をin silicoで検査します。
  • アッセイの準備:適切な基質とプライマー配列を選択したら、反応液を用意します。反応液の基本的成分は、ポリメラーゼ、MgCl2、dNTPs、フォワード/リバースプライマー、ターゲットDNA、10x反応バッファーおよび蒸留水です。
  • アッセイ条件の選択: PCR増幅条件は、総サイクル数とこれらサイクルの温度と時間から構成されます。出発物質であるターゲットDNAの量と、どのくらいのPCR産物が必要かによって条件が決定されます。

PCRの操作はアプリケーションによって非常に異なりますが、Hot-Start PCR用DNAポリメラーゼを使用しない限り、核酸分解酵素活性をおさえて分解を防ぐため、操作は4℃以下で必ず行わなければなりません。

Hot-Start PCRを使用する場合でも、低収量、増幅産物がない場合、または非特異的増幅が観察される場合には、Hot-Startの準備を4℃で行うなど、疑似的Hot-Startプロトコールを適用すると、問題は解決します。PCRの流れの中で、核酸の単離/サンプル調製(mRNAが単離されるq-PCRとRT-PCRでは特に重要)、およびPCRアッセイの準備という、2つの重要な段階にBioCision製品を取り入れることができます。
 

核酸サンプルの単離

DNAまたはRNAを他の細胞組成から単離することは、多くのPCR操作の最初のステップです。

サンプルを直接氷に差し込む

15本のサンプルチューブが直接氷に差し込まれている。これは、現時点において核酸抽出時に用いられる一般的な冷却手段である。 しかしながら、この方法では、サンプル配置に秩序がなく、非均一で断熱性のエアポケットが砕氷の中にあるため、サンプル温度は一様にならず、氷中に存在する微生物や核酸分解酵素にサンプルが汚染される危険性も高い。

氷上のCoolRack モジュール

熱伝導性のCoolRack M15チューブモジュールに配置された左図と同じ15本のサンプルチューブ。このモジュールは、急速かつ均一に<4℃になる高熱伝導性合金でできている。 氷上に載せると、CoolRackはすべてのサンプルを整然とした状態で均一な温度に保つ。 CoolRackを氷の上において使用することで、確かな再現性をもって最適の核酸抽出が達成できる。

CoolBox XTワークステーション

同様の15本のマイクロチューブを、氷を使わず冷却できるCoolBox XTに設置する。 内部の冷却コアにより、サンプルは10時間以上約1℃に保たれる。冷却コアは繰り返し使用可能。 CoolBox XTを使用することで、サンプルが乱雑にちらばったり、濡れたり、氷中に存在する微生物や核酸分解酵素によってサンプルが汚染される危険性、や温度の可変性といった、氷に起因する問題が解消される。

DNA:

市販された多くのDNA単離キットで、室温でDNA単離をおこなっても差し支えないことが示唆されています。しかしながら、不適切なサンプルの収集や保存、取り扱いによって、収率と品質が低くなることもよく知られています。 このことから、DNA単離の前には、温度が確実に一定になるように、またDNAの完全性が維持されるように、すべてのサンプルをCoolRackモジュール中で4℃に保つことを推奨します。RNase Aなどの試薬を氷上で保存する必要がある場合、すべてのチューブの温度が確実に一様になるようにCoolRackモジュールを使用することを推奨します。これにより、試薬は秩序正しく保たれ、核酸分解酵素混入のリスクも低くなります。

RNA:

PCRは、特定の遺伝子の転写物の発現量の定量によく使われますが(q-PCR)、RNAを出発物質とし、PCRの前に、mRNAをDNAに変換する逆転写反応を行う必要があります。mRNAはDNAよりも著しく熱安定性が低いことに注意し、またmRNAを扱うときには細心の注意を払うことが非常に重要です。 また、これらの転写物を正確に分析するためには、目的の細胞または組織から、高品質のRNAを、その分解を最小限におさえて抽出することが重要となります。
RNase活性を阻害することでRNAが保存されるため、RNA抽出に先だってサンプルを低温(4℃)で必ず保つ必要があります。BioCisionのRNA抽出プロトコールで、CoolBox XTCoolRackモジュールを一般的なRNA抽出手順にどのように取り入れるかを説明しています。詳細は下記URLを参照してください。

RNA Isolation/Extraction:

http://www.biocision.com/applications/RNA-isolation-extraction
 

PCRアッセイの準備

アッセイの準備中、すべてのPCR試薬は4℃に保たれていることが重要です。PCRプライマーは特に温度に敏感であり、Pfu DNAポリメラーゼまたはPCR酵素混合物の3’-5’エキソヌクレアーゼ活性により分解される可能性もあります。さらに、dNTPsは凍結/融解サイクルの繰り返しに敏感です。

サンプルを直接氷に差し込む

写真にはPCRアッセイを準備する間、サンプルを低温に保つ一般的な方法、つまりPCRプレートと試薬チューブを直接氷に差し込んだ様子でである。この方法では、 非均一で断熱性のエアポケットが砕氷の中にあるためサンプル温度は一様でなく、氷中に存在する核酸分解酵素や微生物にサンプルが汚染される危険性も高い。

氷上のCoolRack モジュール

上に示したPCRプレートとマイクロチューブは、CoolRack PCR96モジュールCoolRack M6チューブモジュールに設置されている。 これらのモジュールは高熱伝導性合金製で、急速に氷の温度(60-90秒後に<4℃)に達し、すべてのチューブとプレートを同一温度(±0.1℃)で安定に、秩序正しく、濡れない状態で保つことができる。CoolRack PCRとチューブモジュールを操作手順に加えることで、多くのPCRプロトコールが大きく改善される。

CoolBox XTワークステーション

PCRプレートとマイクロチューブは、氷を使わず冷却できるCoolBox XTワークステーション中で低温に保たれている。 内部にある冷却コアにより、サンプルは10時間以上約1℃に保たれる。冷却コアは再利用可能。 CoolBox XTがPCRの手順に組み込まれると、サンプルが整理されず濡れてしまったり、氷中に存在する微生物や核酸分解酵素によってサンプルが汚染される危険性、またサンプル温度の可変性など、氷に関連する問題が解消される。

※あるウェル中のRNA量と別のウェル中のRNA量を比較した定量実験においては、ウェル間の温度の一貫性がさらに重要となる。実験の準備をする間、反応プレート内のどんな温度差も測定結果に変動を与え、サンプルの定量的な差に影響を及ぼす可能性がある。
 

氷を使用しない実験ベンチでのサンプル冷却

CoolBox XTアイスフリー冷却システムは、氷を用いる冷却法の代替法であり、他に匹敵するものはありません。CoolBox XTは電気や電池を必要とせず、その代わりに内部冷却カートリッジであるXT冷却コアを通じて、10~16時間までサンプルを均一に、また再現性よく低温(0.5-4℃)に保ちます。 また、デザインがコンパクトで、長方形の通常の氷容器の半分のスペースしかとらず、貴重な実験ベンチ空間を確保します。
CoolBox XTは組み立てが簡単で使いやすく、XT冷却コアを-20℃フリーザーで予備冷却し、CoolBox XTベースにセットするだけで完了します。室温にある(望ましくは予備冷却した)CoolRackチューブモジュールまたはCoolSinkプレートモジュールをXT冷却コアに乗せ、サンプルモジュールが<4℃に平衡化するのを待ちます。その後、チューブまたはプレートサンプルをCoolBox XTにセットし、それらを長時間低温に保ちます。

  • 蓋を閉めた状態で最大16時間、開けた状態で10時間までサンプルを低温に保つ
  • マグネットパーツにより組み立てが簡単で、操作も確実
  • 冷却コアに現在温度を確認できる温度インジケーターを搭載
  • 洗浄しやすく、漂白剤またはアルコールで洗浄できる
  • クリーンベンチや安全キャビネット、または氷の使用が禁止された、混入汚染の心配がある場所での使用に理想的

 

CoolBox XTの性能

(左)CoolBox XTにセットした微量遠心チューブ。(中)蓋を開けた場合は10時間まで、(右)蓋を閉めた場合16時間以上サンプル温度は均一に1℃近くに保たれる。