アプリケーションノート

Celloger Proを用いた細胞周期進行のイメージングおよび定量分析
Celloger Proを使用
細胞の恒常性を維持するための、基本的な生物学的プロセスが細胞周期の制御です。このプロセスは、DNAの複製や細胞の分裂などを協調して実施させる、緻密にコントロールされたシグナル経路によって制御されています。この制御が乱れると、細胞増殖のコントロールが効かなくなったり、変異が蓄積し、アポトーシスを回避するようになります(つまり、ガンやその他病態の特長を備えるようになります)。結果として、細胞周期の進行を制御するチェックポイントがガン研究や治療における重要なターゲットとなってきました。1
細胞周期に対する従来の研究アプローチは、大半が形態観察やエンドポイント分析によるものでした。明視野イメージングは、全体的な形態変化に基づき、分裂細胞と非分裂細胞を見分けることができますが、ステージ間による形態の差が小さいため、特定のフェーズ(G1、S、G2-M)などを特定するには不十分です。その代わり、細胞周期のフェーズ分布を分析するため、フローサイトメトリーや細胞固定免疫染色などでフェーズ特有のマーカーを使用することができます。2,3 これらの方法は有用ではあるものの、時間分解解析ができず、また個別の細胞を連続して追跡することもできません。
これらの問題を克服するため、生きた細胞の細胞周期の進行をリアルタイムで可視化できるFUCCI(Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator)が開発されました。4 FUCCIは、2つの細胞周期制御ライセンス化因子、CDT1(Chromatin Licensing and DNA Replication Factor 1)とジェミニンの発現とプロテアソーム分解を利用しています。CDT1は、分裂開始において、DNAのライセンス化とMCM(mini-chromosome maintenance)ヘリカーゼ複合体をクロマチンへ結合させるという重要な役割を果たしています。一方で、ジェミニンはCDT1を阻害し、DNAの再複製を防ぐことで、1つの細胞周期でゲノムが1回だけしか複製しないようにしています。5 2色蛍光系で観察を行うと、これらのタンパクの安定化や分解が交互に起こることで、特長のある周期的な蛍光パターンが認められます。これらのダイナミックな変化により、細胞周期のポジションに基づき、細胞を視覚的に分類することができます。
このアプリケーションノートでは、2色蛍光チャネルのCelloger Proを使用し、FUCCIを発現したU2OSを観察しました。連続的なタイムラプスイメージングがシングルセルおよび細胞集団の両方において、細胞周期の進行を直接的に観察することができました。また、自動分析アルゴリズムを使用し、時間経過により細胞のコンフルエンシーが増加した際の、細胞周期フェーズの分布変化の定量分析を行いました。このアプローチにより、内在性の制御経路を乱すことなく、細胞周期の移行を非侵襲的かつダイナミックにモニタリングすることができます。
FUCCI(CA)
CDT1やジェミニンを制御する、特定のE3ユビキチンリガーゼに基づいて幾つかの種類のFUCCIが開発されています。6 このアプリケーションノートでは、FUCCI(CA)を使用しています。FUCCI(CA)では、AzaleaB5-tagged Cdt1 (赤色)が CUL4Ddb1により分解され、h2-3-tagged Geminin (緑色)はAPCCdh1により分解されます。安定的にFUCCI(CA)を発現するU2OS細胞[FUCCI(CA)-U2OS]を分析に使用し、周期的に変化する赤色と緑色のシグナルを解析し、細胞周期の追跡を行いました。
タイムラプスイメージングおよび分析
FUCCI(CA)-U2OS細胞を、10%FBSと1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したRPMI1640培地(Welgene, LM011-01)と100mmディッシュを用い、37℃で培養を行いました。Celloger Pro(4Xおよび10X)を用いて、コンフルエンシーが80%を超えるまで、30分間隔でタイムラプスイメージングにより細胞分裂を観察しました。Celloger Analysis Appを使用し、コンフルエンシーと蛍光を発する核の数の定量化を行いました。
画像分析後、各細胞周期フェーズの細胞の数を次の式に基づいて算出しました。

S期 = n(G) – n(Y)
G2-M期 = n(Y)
G1期 = n(R) - n(Y)
*n(G), n(R):シングルチャネル蛍光イメージングで自動カウントしたそれぞれの細胞の数。(緑色/赤色)
*n(Y):マージ画像で、両方の蛍光シグナルを発現している細胞をマニュアルカウントした数。
はじめに、細胞周期の進行は、FUCCI(ライセンス化因子CDT1およびジェミニンの発現に基づいてフェーズ特異的に視覚化する方法)を利用して分類を行いました。これらの因子はフェーズ特異的なE3ユビキチンリガーゼによって制御されており、結果的に細胞周期の移行を反映する周期的な蛍光シグナルを示します(図1)。赤色の蛍光はG1フェーズの休止期にある細胞で強くなり、緑色の蛍光は、S期およびG2-M期に蓄積するため、これにより細胞周期の進行をリアルタイムで追跡できます。

図1. FUCCI(CA)システムのメカニズムと細胞周期における蛍光の変化
(A)E3ユビキチンリガーゼCUL4Ddb1およびAPCCdh1によるFUCCI(CA)システムにおけるCDT1およびジェミニン制御の概要。矢印はリガーゼの活性(On/Off)を示す。G1期の間、APCCdh1が活性化し、ジェミニンの分解が促され、CDT1が蓄積する。S期に入ると、APCCdh1が不活化され、CUL4Ddb1が活性化し、CDT1が速やかに分解されるとともに、ジェミニンが安定化する。ジェミニンはS期からG2-M期の間蓄積状態となり、再分裂を防ぐ。有糸分裂の終期に、その後に続くG1期に向けてシステムをリセットするため、APCCdh1が再活性化し、ジェミニンが分解される。
(B)Celloger Proで取得した画像の蛍光強度測定に基づくFUCCI蛍光強度の経時的変化。細胞周期中のCDT1(赤)およびGeminin(緑)の周期的な発現を示す。破線は、蛍光変化に基づく各フェーズの境界。
Celloger Proを用いて画像を取得したFUCCI(CA)-U2OS細胞は、こういった傾向パターンを明確に示しました(図2A)。明視野(BF)イメージングのみでは、細胞周期のフェーズを区別することはできませんでしたが、蛍光イメージングにより正確に区別することができました。BFと蛍光を組み合わせたイメージングにより、有糸分裂の進行(核膜の消失(NEB)/前期/後期)の視覚化が可能となりました。後期以降、緑色の蛍光は急激に減少しました。また、連続したタイムラプスイメージングにより個別の細胞を長期的に追跡できるため(図2B)、母細胞から娘細胞へと至る細胞の由来を追跡することが可能となり、高密度な細胞の集団におけるシングルセルレベルの解析が可能となりました。

図2. FUCCI(CA)フェーズ移行のタイムラプスイメージング
(A)10倍の倍率で取得した明視野(BF)と蛍光(FL)の代表的なマージ画像。それぞれ異なった細胞周期を示す(G1→S→G2→NEB/M→G1)。
(B)4倍の倍率で取得し、トリミングした画像。代表的な細胞を追跡した経時的変化。黄色および白色の矢印は追跡した各細胞を示しており、同色の文字は、各細胞のフェーズを示す。スケールバー = 50µm
これらの結果を定量的に解析するため、FUCCI(CA)-U2OS細胞で得られたタイムラプスデータの自動画像分析を行いました。BFをベースとした分析で、細胞の占有率は時間とともに増加することが明らかとなり、72時間が経過するまでにコンフルエンシーは約80%に達したため、イメージング環境下において細胞が増殖することが確認されました(図3A)。並行して行った絶対細胞数分析で、時間経過によりトータルの細胞数も顕著に増加することが分かりました(図3B)。G1期の細胞は継続的に増加するものの、S期およびG2-M期の細胞数変化は比較的穏やかでした。
コンフルエンシーや細胞数は増加したものの、増殖細胞の割合はそれに伴って増加することはありませんでした。細胞周期の分布を相対的な比率で表すと、G1期の細胞は一貫して大部分を占め、かつ時とともに増加した一方で、S期の細胞は少しずつ減少し、G2-M期の細胞ではほとんど変化が見られませんでした(図3C)。特に、全体のコンフルエンシーが72時間を経過する前に80%に達したものの、S期およびG2-M期の細胞数の変化が少なかったことは、増殖する細胞の割合が、細胞密度と相関して増加するわけではないということを示しています。まとめると、これらの結果は、コンフルエンシーが増加すると、G1期の細胞が増加する、ということを示唆しています。



図3.細胞増殖および細胞周期分布の定量分析
FUCCI(CA)-U2OS細胞を予め指定した8-9か所にて、4倍の倍率で72時間観察した。(A)BFを元に、コンフルエンシーの経時変化(B)自動細胞計数を元にした各時間における各フェーズの絶対細胞数。エラーバーは8-9か所のイメージングを元にした標準偏差。(C)12時間間隔でのG1、S、G2-M期の細胞の割合。各時間のポイントで100%に標準化。
FUCCIとタイムラプスイメージングを組み合わせることにより、FUCCI(CA)-U2OS細胞の、細胞周期の進行を長時間に渡って継続的に観察することができました。フェーズ特異的な蛍光シグナルにより、明視野イメージングだけでは不可能な、ダイナミックな細胞周期の変化を直接的に視覚化できました。また、画像をベースとした定量化により、細胞の増殖とフェーズごとの細胞数を同時に分析することができ、同一の細胞集団における細胞増殖を包括的に捉えることができました。標準的な増殖環境において、この分析により、コンフルエンシーの増加に伴ってG1期が優勢となる集団へ移行することが分かりました。これは、細胞密度が高くなるほど、増殖活性が低下することを示唆しています。
これらの結果は、FUCCIをベースとしたイメージングが、細胞周期研究における定量的なプラットフォームとして有用であることを示しています。FUCCIとCelloger Proを組み合わせることで、コンフルエンシーおよびフェーズ(期)移行の継続的な観察が可能となります。これにより、レポーターの発現以外の追加染色を必要とせず、コンフルエンシーに関連する細胞周期移行の経時分析が可能となります。このアプローチは、特に、細胞周期を停止させたり、フェーズの移行を遅らせる化合物の評価などのアプリケーションに最適です。
このように、Celloger Proは、安定した長期的なイメージングとコンフルエンシーの自動解析、蛍光ベースの細胞計数を組み合わせることで中心的な役割を果たしています。この組み合わせにより、再現性が高く、また細胞への影響が少ない細胞周期ダイナミクスの定量化が可能となります。まとめると、FUCCIシステムとCelloger Proは、多様な条件下における細胞周期制御研究や実用的かつ拡張性のあるソリューションとなります。
※本資料は、Curiosis 社の許諾を得て、ワケンビーテック社(弊社)が英語の原文資料を日本語に翻訳したものです。
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