コールドチェーン
MSC(上記写真)に対する、最適な融解方法が議論されています。(出典:Wikimedia)
*Astero Bio社が旧medcision社の事業を承継しておりましたが、Astero Bio社がBioLife Solutions社に吸収合併されたことにより、現在はBioLife Solutions社が事業を引き継いでいます。
凍結保存は、治療用製品の安定供給や長期間の保存に貢献しており、幹細胞研究や細胞療法に対して大きな影響を及ぼしています。凍結保存に先だち、治療用細胞の温度管理サプライチェーン(コールドチェーン)の重要性についてはよく議論される一方で、その他の問題(凍結状態の細胞が、培養やヒトへの再導入に適した温度へ移行する際に何が起こるのか)についてはほとんどど言及されていません。
アイルランド国立大学ゴールウェイ校の研究チームがこの問題に取り組んでおり、最近発表した論文において、凍結した間葉系幹細胞(MSCs)に対する温度上昇や融解の影響を論じています。[1]
細胞、特に幹細胞は、代謝活性状態から凍結状態への移行時、またその逆の場合において最も脆弱な状態となります。
大きな要因としては、下記の二つが挙げられます。
1)細胞膜に機械的な損傷を引き起こす、結晶化の危険性
2)この障害から細胞を保護するために使用される物質(特にDMSO)
DMSOの毒性についてはよく知られています。したがって、細胞融解プロトコルでは、DMSOの影響を最小限にするため、融解後はできるだけ速やかに凍結用培地から細胞を取り出すことが推奨されています。
しかし保存や移送、処理の間に、細胞が常温にさらされることは避けられません。幹細胞に対し、常温への長時間曝露が及ぼす影響を詳細に知るため、当該研究チームは、時間経過に対する細胞生存率の評価が可能な、極めて高度なコンピューターモデリングシステムを開発しました。
この研究の焦点は、凍結したラットMSCsにおいて、温度上昇と融解が細胞膜にどのような影響を及ぼすのかということでした。
研究目的に叶うように、この細胞は、同種の細胞を凍結する方法として推奨される-1℃/分の速度で凍結(緩慢凍結法)されました。研究チームは-20℃から37℃の範囲において、異なった6点の温度で、18時間以上の時系列データを収集しました。生存率に関しては、凍結前と研究環境に晒された後の2点で測定を行いました。
生存率(通常80%以上)のベースラインを標準化したところ、構築したモデルは高い精度で、任意の温度における細胞生存率の予測が可能であることがわかりました。
また短時間の温度上昇であっても、凍結細胞の生存率に対しては極めて有害であることが判明しました。この論文で述べられているモデルは、治療細胞の一連の処理において、様々な温度に曝露された場合のダメージを研究者が予測できるため、重要かつ実用的な有益性があるといえます。細胞融解プロセスの研究や最適化において、新たに率直な意見交換が行われることを期待しています。
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