アプリケーションノート自動ライブセルイメージングシステム

Application Note:Celloger Proによる創傷閉鎖動態リアルタイムモニタリングと自動定量化

Celloger Proによる創傷閉鎖動態リアルタイムモニタリングと自動定量化

※ 英語版から日本語版への翻訳にあたり、一部の内容を省略しています。

■はじめに

細胞の遊走は、創傷の治癒や組織の再生、がん転移に関わる基本的な生物学的プロセスです。1「スクラッチアッセイ」とも言われる創傷治癒アッセイは、人工的に作成した隙間を、細胞がどのように動き、修復するかを様々な刺激下でモニタリングすることで、細胞の遊走能力を評価する手法として広く用いられているin vitroアッセイです。

細胞動態の制御メカニズムや、治療薬候補となる物質の有効性を評価する上では、様々な条件における遊走パターンの差を正確に区別することが重要です。例えば、成長因子の量(例:血清濃度)変化や薬剤誘導による骨格の変化は、創傷閉鎖の過程に大きな影響を与えます。また、実験結果を正しく解釈する上には、正確に定量化することが必要不可欠です。しかし、マニュアルでのイメージングや解析による従来のアプローチは、特に複数の条件や僅かな表現型の差を比較するような場合には、時間がかかる上に再現性に乏しいことがあります。標準化された画像取得や解析が可能な、自動化タイムラプスイメージングを使用すれば、作業者による誤差を軽減することでこれらの問題を解消し、より信頼性の高い比較を行うことができます。
このアプリケーションノートでは、Celloger Pro自動ライブセルイメージング装置を使用し、複数濃度のFBSや細胞遊走能を調節する薬剤を用いた治療など、様々な条件下においてリアルタイムでの創傷治癒アッセイを行いました。Cellogerの最新の画像解析アルゴリズムを利用してアッセイを定量化することで、様々な条件下における創傷閉鎖過程を客観的かつ一貫的に測定することができました。全体として、このワークフローは、自動化タイムラプスイメージングと定量的画像解析を組み合わせることで、細胞遊走アッセイをよりシンプルかつ速やかに実行でき、一貫性のある結果が得られるということを示しています。

■材料と方法

NIH-3T3繊維芽細胞を、10%FBS、1%ペニシリン・ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて37℃で培養した。細胞のコンフルエンシーが約90%になった段階で、滅菌済みのピペットチップを使用して、各ウェルの中心部に均一な線状の傷(創傷)をつけた。傷をつけた直後に、BSを使用してウェルを2回静かに洗い、剥がれた細胞などを除去した。その後、0%、5%、10%FBSを添加したDMEMにて細胞をインキュベートした。薬剤による治癒実験のため、10%FBSを含むDMEMで培養した細胞を、スタウロスポリン(10nM)、サイトカラシンB(1.2µM)およびドキソルビシン(50nM)で処理した。タイムラプス観察は、30分ごとに計72時間行った。創傷エリアの定量は、Celloger Analysys Appを使用して取得した明視野(BF)画像を元に行った。

■結果

創傷閉鎖率は異なった実験条件下における細胞の遊走能や治癒能力の指標とみなされます。Celloger Analysys Appには、様々な細胞構造や実験目的に合わせたモードが搭載されています。Wound Areaモードを使用すると、ソフトウェアが創傷部と細胞で覆われたエリアを識別し、創傷エリアが黄色で表示されます(図1)。創傷エリアは各時間において、高精度分析アルゴリズムを用いて行い、創傷閉鎖率は次の式から算出した。


※ At=0hは、創傷作成直後(t=0h)に測定した創傷面積

※ At=Δhは、創傷作成後h時間経過後に測定した創傷面積

図1. 創傷治癒分析のワークフロー

NIH-3T3細胞の同一部における明視野像。Normal cellモードおよびWound areaモードのオーバーレイ。下部の画像は、創傷後、0時間、2時間、40時間の画像。黄色は検出された創傷部。
スケールバー=200µm

まず初めに、それぞれのFBS濃度(0%、5%および10%)での創傷閉鎖率(%)の変化を比較しました(図2)。創傷エリアが同じ面積である場合、0%FBSのものは創傷の閉鎖が遅く、治癒能力が減少していることが示唆されました。これに対して、10%FBSにおいては、速やかな創傷の閉鎖が見られました。これは、細胞の遊走能や増殖能が高いことを示しています(図2A)。また、閉鎖速度は10%FBSよりも遅いものの、5%FBSでも創傷の閉鎖が見られました。定量分析では、10%FBSにおいては時間とともに急速な増加が見られるものの、0%FBSにおいてはわずかな変化しか見られませんでした。これらの結果は、培地に含まれる成長因子が細胞の運動や創傷治癒ダイナミクスに大きな影響を与えることを示しています(図2B)。

図2. 創傷閉鎖に対するFBSの影響

(A)創傷作成後、0時間、20時間、40時間、60時間経過後の明視野画像(0%FBS、5%FBS、10%FBS)。創傷エリアを黄色で表示。スケールバー=200µm
(B)創傷閉鎖率の定量曲線(72時間)。創傷閉鎖の速度は10%FBS、次いで、5%FBS、0%FBS。

創傷の閉鎖は、血清の濃度のほかに、細胞の遊走や増殖、細胞死にも影響を受けます。これらのプロセスの変化が創傷の閉鎖にどのような影響を与えるかを試験するため、亜致死量のスタウロスポリン、サイトカラシンB、ドキソルビシンを用いた追加実験を行いました。
画像(図3)のように、10%FBS(コントロール)では、高いレベルの創傷閉鎖が見られました。一方で、強力にアポトーシスを引き起こす2スタウロスポリンにおいては、創傷治癒活動の顕著な低下が見られました。また、細胞はアポトーシスで見られる縮小などの形態上の変化も示しました(図3A-B)。20時間が経過した頃に、顕著な細胞死が見られ、創傷閉鎖曲線はプラトー状態に達し、それ以降、創傷閉鎖はほぼ認められませんでした(図3C)。
サイトカラシンBにおいても、顕著な創傷閉鎖率の低下が見られました。サイトカラシンBは、アクチンの重合を阻害し、細胞の運動に必要な細胞骨格運動を障害する3、つまり運動能を低下させるためです。細胞死の根拠となるものは観察されませんでしたが、細胞増殖の抑制や、治癒先端部の伸展の低下、創傷閉鎖の速度低下が見られました(図3C)。

興味深いことに、ドキソルビシンの創傷閉鎖率はコントロールと同様でした。DNA障害を引き起こす4化学療法剤であるドキソルビシンは、試験環境下では明白な細胞死を引き起こさず、細胞増殖を抑制しました。成長は抑制されたものの、細胞は遊走能を維持し、広範囲に広がったため、創傷閉鎖はコントロールと同等に維持されました。これにより、増殖能を抑制するだけでは創傷の閉鎖に対して十分な影響を与えないこと、また創傷の閉鎖を阻害するには、遊走能を直接阻害することが効果的であることが示されました。ドキソルビシンは、軽度な細胞毒性ストレス下において代償性反応を促し、これにより細胞は成長が抑制されている5にも関わらず細胞集団が継続的に移動し、面積を増加するのだと考えられます。これらの結果は、創傷閉鎖曲線は使用する薬剤によって大きく異なり、その傾向に基づいて、明確にパターン(例:急速な上昇、緩やかな上昇、または変化なし)分けができることを示しています。

まとめると、創傷閉鎖ダイナミクスを理解する上で、ライブセルイメージングが有用であることが分かります。細胞の遊走や増殖は条件や治療法により異なった動態を示すためです。これらのプロセスがどの程度関与するのかを相対的に分類することで、創傷治癒能力を正確に評価することができ、また外部からの刺激が細胞の集団に対しどのような影響を与えるかを明確に知ることができます。

図3. 創傷閉鎖に対する各薬剤の影響

(A)10% FBS(コントロール)および、薬剤処理後(スタウロスポリン10nM;サイトカラシンB 1.2µM;ドキソルビシン50nM)の明視野画像。創傷作成後、0、20、40、60時間後の画像。スケールバー=200µm
(B)60時間時点の創傷閉鎖先端部の拡大画像。0時間時点の創傷部を黄色で表示。
(C)各条件における72時間での創傷閉鎖率。

■結論

このアプリケーションノートでは、創傷治癒アッセイにおけるCelloger Proの有用性を示しています。NIH-3T3細胞を用い、様々なFBS濃度における創傷閉鎖率の差が明らかとなり、また異なった薬剤による創傷閉鎖パターンをそれぞれ分類することができました。画像取得と創傷エリア定量の両方を自動化することにより、最小限のマニュアル操作で、高解像度かつ経時的な創傷治癒モニタリングを行うことができました。
特に、先進的な創傷部検出アルゴリズムが、低コントラストの部位や部分的に閉鎖している場所であっても、正確かつ一貫的に創傷領域の検出を可能とします。これにより、ユーザーによるばらつきを軽減し、定量分析の信頼性が向上します。
最終的には、様々な条件下での創傷閉鎖反応を明確に区別する機能は、再生医療研究や、細胞遊走研究において、Celloger Proが有効なオールインワンソリューションであることが裏付けられました。

■参考文献

  1. Andries D., “A microfluidic wound-healing assay for quantifying endothelial cell migration” American Journal of Physiology (2010).
  2. Chafké Ahmed Belmokhtar., “Staurosporine induces apoptosis through both caspase-dependent and caspase-independent mechanisms” Oncogene 20(3354-3362) (2001).
  3. Susan MacLean-Fletcher., “Mechanism of action of cytochalasin B on actin” Cell volume 20(2) (1980).
  4. Hilal Taymaz-Nikerel., “Doxorubicin induces an extensive transcriptional and metabolic rewiring in yeast cells” Scientific Reports 8(13672) (2018).
  5. Samia Mohammed., “Sublethal doxorubicin promotes migration and invasion of breast cancer cells: role of Src Family non-receptor tyrosine kinases” Breast Cancer Research 23(76) (2021).

翻訳・文責:ワケンビーテック株式会社 企画推進部

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