アプリケーションノート

ミトコンドリア膜電位の測定
Celloger Proを使用
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生を担う主要な細胞内小器官です。特に、ミトコンドリア膜電位(MMP, Mitochondrial Membrane Potential)は、ATP産生において重要であることから、ミトコンドリアの機能の主要な指標だと考えられています1。そのため、MMPの測定はアポトーシスや細胞生存率、そして細胞全体としての健康を評価するためのマーカーとして使われてきました。さらに、ミトコンドリアはガンや糖尿病、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの脳疾患において重要な役割を果たすことが知られており2、MMPの理解やモニタリングより重要となっています。
今日、ミトコンドリア電位を視覚化するための様々な蛍光プローブ、例えばTMREやTMRM、JC-1、JC-10、Mito-ID、MitoTrackerなどが開発されています。これらの中で、JC-1やJC-10色素は、プローブの形状に応じ、異なった蛍光波長を発します。通常のMMPを有する健康的な細胞では、JC-10はミトコンドリア内に蓄積し、赤色蛍光波長を発する凝集体を形成します。一方で、MMPが低下した不健康な細胞、例えばアポトーシス細胞では、JC-10は細胞質に散らばってモノマーとなり、緑色蛍光波長を発します3。このアプリケーションノートでは、Celloger Proを使用し、ミトコンドリア膜電位を評価するための方法をご紹介します。
HeLa細胞を3.5×104 cells/ウェルの濃度で24ウェルプレートに播種しました。オーバーナイトでインキュベーションした後、0.5、1、2、4、6、8、10、20µMのcarbonyl cyanide 3-chlorophenylhydrazone (CCCP) (Sigma, C2759-100MG)で20分間処理しました。HBSSバッファーにて洗浄した後、10µM JC-10(AAT bioquest、22204)溶液を用い、暗所にて1時間、細胞の染色を行いました。
その後、自動ライブセルイメージング装置であるCelloger Pro(2×レンズ)を用い、画像を撮影しました。
JC-10色素と、酸化的リン酸化の脱共役剤として機能するcarbonyl cyanide 3-chlorophenylhydrazone (CCCP)を使用して、脱分極による蛍光の変化を観察しました。定量比較を行うため、2×レンズを装着したCelloger Proを使用し、広い視野で赤色および緑色蛍光画像を撮影しました。また、蛍光強度の変化を測定するため、解析ソフトウェアを使用しました。CCCPの濃度が高くなるにつれ膜電位が脱分極し、これにより赤色蛍光強度は低下、緑色蛍光強度は増加しました(図1A)。この傾向は、細胞の全体が緑色になり、赤色蛍光強度がほぼ無視できる状態となったCCCP濃度20µMに達するまで見られました。Celloger Pro(2×レンズ)にて撮影した画像をトリミングして拡大することで(図1B)、赤色蛍光と緑色蛍光の分布を観察することができました。図1Cのグラフは、CCCP濃度と緑色蛍光/赤色蛍光比率についてドットプロットで作成したもので、多項式回帰曲線に適合する緩やかな上昇パターンを示しました。

図1. CCCP濃度依存的なミトコンドリアの機能障害
(A) 緑色蛍光および赤色蛍光はCCCPの濃度により異なった。
(B) コントロール群においては、赤色のドット様のシグナルが観察されたが、CCCP処理を行った細胞では、鮮明な緑色蛍光が細胞質全体に広がっていた。
(C) 緑色蛍光/赤色蛍光比率 - CCCP濃度の関連性は、二項回帰曲線(R2=0.97)を用いてモデル化。
細胞内におけるミトコンドリア活性は、MMPなど(これは細胞周期4のステージによって異なることがある)のファクターを含む細胞内環境に対し、複雑にコントロールされています。従って、これらのバリエーションを念頭に置き、十分に広い領域で解析を行うことが重要ですが、複数ポイントの画像を取得することは大きな労力を伴います。また、分子の形態により、2種類の色を示すJC-10のような色素を検出するには、2種類の異なった蛍光チャネルを使用し、それぞれの色を検出しなければなりません。明視野イメージングやデュアルカラー蛍光イメージングが可能なCelloger Proを使用することで、これらの課題を克服することができます。また、Celloger Proの自動駆動カメラにより、複数ポイントの画像も効率的に取得することが可能です。
※本資料は、Curiosis 社の許諾を得て、ワケンビーテック社(弊社)が英語の原文資料を日本語に翻訳したものです。
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