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SARS-CoV-2に対するバイオセフティキャビネットのHEPA / ULPAフィルターの効果

ULPAフィルター(Ultra-Low Particulate Air filter)は、0.1~0.2ミクロンサイズの微小な粒子を捕獲し、また、米国のIEST-RP-CC001.3ガイドラインに準拠し、99.999%の粒子捕集効率を有しています。ULPAフィルターを構成する繊維は静電気を帯びており、これによってほこりや微生物、微粒子を捕獲し、空気を浄化します。
一方で、HEPAフィルター(High-Efficiency Particulate Air filter)は0.3ミクロンの粒子を99.99%捕獲します。
気流制御システムや専用に設計されている安全キャビネットとこれらのフィルターを組み合わせて使用した場合、そのワークエリアの清浄度はHEPAフィルターでISOクラス5、ULPAフィルターでISOクラス3となります。ULPAフィルターの捕集効率はHEPAフィルターの10倍であり、より高度な安全キャビネットにULPAフィルターが使用されます。

図. 微粒子を含んだ空気がULPAフィルターを通過する際のイメージ

SARS-CoV-2を捕獲することはできるのか?

SARS-CoV-2のサイズはおよそ0.12μmとされており、特にHEPEフィルターにおいてはウイルスの捕集効率を疑う向きもあります。HEPAフィルターが0.3μm以上の粒子しか捕獲できないというのはよくある誤解です。そのため、フィルターの捕集効率についての事実を紹介します。
0.3μm以上の粒子は、フィルターを通過時に捕捉されフィルター内に留まります。一方、0.3μm未満の粒子は、HEPAフィルターの孔を簡単に通過するように見えます。しかし実際には、ブラウン運動という微粒子の運動により、0.3μm未満の粒子であってもHEPAフィルターに捕獲されます。

ブラウン運動について

粒子はお互いに衝突したり、跳ね返ったりすることでランダムに動き(ブラウン運動)、最終的にフィルター繊維に衝突して捕獲されます。このように、0.3μm未満の粒子であっても、HEPAフィルターやULPAフィルターに容易に捕獲されるのです。

図. 粒子のブラウン運動

NASAが2016年に行った実験によると、HEPA規格に準拠したフィルターは微粒子をほぼ100%捕獲する優れた効率を示しました。また、0.3μm程度の粒子‐MPPS(Most Penetrating Particle Size)と呼ばれる粒子‐についての捕集効率の低下も僅かでした。

MPPSはフィルターに最も捕獲されにくい特定サイズの粒子であり、フィルターの気流に乗って孔を通過できるサイズで、またブラウン運動の影響を最も受けにくい質量の粒子です。従って、このMPPSよりもサイズが小さな粒子(例:0.3μ未満のウイルス粒子)は、実際にはより効率的にHEPAフィルターやULPAフィルターに捕獲されます。

バイオセフティキャビネットのフィルターの保護性能を最大限に保つには

定期的に適切なメンテナンスを行うことが最も重要です。装置の性能維持のためには、フィルター交換や保守点検、除染を定期的に行うことが必要で、これによって作業者が最大限に保護されます。COVID-19の検査施設などでは、特にこれらの定期検査を実施することが必要です。

予防保全

予防保全は重要です。定期的なメンテナンスと問題を早期に発見することで、予期せぬダウンタイムや故障を防ぎます。予防保全を行う際に行う手順は次の通りです。

  • 作業エリアの表面および壁面を適切な消毒剤で消毒する
  • しつこい染みや汚れを除去する
  • 聴覚、視覚アラームのテストを行う
  • 機械的、電気的機能部分に不具合が無いことを確認する

年間保守点検

この作業は手間がかかりません。予期せぬ故障のリスクを低減し、ユーザーを危険から保護するためには、毎年点検を行うがあります。この点検は、HEPA/ULPAフィルターの性能検査を含む一連の検査で構成されます。次のテストはメーカーの仕様や、NSF49などの関連規格に従って実施されます。

  • 流入風速試験
  • 下降気流風速試験
  • リークテスト
  • 照度試験
  • ノイズレベル試験
  • UV強度試験

除染

安全に使用するため手順です。フィルター交換や装置の設置、移設の際には適切な除染が必要です。除染剤として次のものが使用されます。

  • 二酸化塩素
  • 過酸化水素
  • ホルムアルデヒド(特定の条件により依頼者が要望した場合)

IQ/OQ

監査対応ラボに必要。据付時適格性評価(IQ)および運転時適格性評価(OQ)を行い、国際規格に基づいた検査により装置の適切な設置とスムーズな運転を確実にします。次の監査に備え、懸念を解消しておくと良いでしょう。

参考

[1] Perry, J.L. Agui, J.H. Vijayakumar, R. 2016. Submicron and Nanoparticulate Matter Removal by HEPA-Rated Media Filters and Packed
Beds of Granular Materials. https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20170005166/downloads/20170005166.pdf
[2] European Standard EN 1822-1:2009. 2009. "High efficiency air filters (EPA, HEPA and ULPA)".
[3] Scherzer, U. Brown, C. March 2020. Efficiency of HEPA filters. https://www.hamilton-medical.com/en/E-Learning-and-Education/
Knowledge-Base/Knowledge-Base-Detail~2020-03-18~Efficiency-of-HEPA-filters~d5358f88-753e-4644-91c6-5c7b862e941f~.
html.


本記事は、ESCO社の作成した記事 "The Lab Cycle: Esco Scientific Quarterly Newsletter - Issue 6, Jul - Sep 2021" (クリックすると外部サイトへ移動します)の一部 "How Effective are the Biosafety Cabinet’s HEPA and ULPA Filters Against the SARS-CoV-2?" をワケンビーテック株式会社が日本語に翻訳したものです。英語原文と日本語訳の間に内容の相違がある場合は英語原文の内容が優先します。

安全キャビネットの保守点検について*

弊社はユーザー様からのご依頼により、安全キャビネットの保守点検業務を行っております。安全キャビネットの検査では、ユーザー様に安心してお使いいただけるよう、定められた手順に従ってHEPAフィルタの透過率試験(相対濃度計を使用)、吹出し/流入風速試験、気流方向試験、作業エリア清浄度試験(パーティクルカウンターを使用)を行います。

定期点検をご用命の場合は以下のリンクからご依頼ください。

※定期点検の対応はESCO社や弊社が販売する安全キャビネットに限ります。