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COVID-19検査のための抗体検査キットと抗原検査キットについて

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に対し、感染の有無を検査するため、PCR検査や抗原検査、抗体検査が用いられています。本ページでは、抗原検査および抗体検査の違いやメリット・デメリットなどを簡単にご説明いたします。詳しい原理や知識をお求めの場合は、専門書や、より専門的な内容を紹介する他のWEBサイトをご覧ください。
なお、PCR検査については、別ページ(https://www.wakenbtech.co.jp/topics/post-23136)にて簡単に説明しております。

注意:本ページにおいて、検査キットの見方などを説明しておりますが、コロナ感染の診断は医師法に基づき、医師のみが行うことができます。また、検査キットの結果は100%正しいわけではありません(偽陰性、偽陽性の可能性がある)ので、検査キットの結果が陰性であっても感染が疑われる事例があった場合は、医療機関、保健所等にご相談いただくことをおすすめいたします。

用語

本ページにて使用する用語の定義は次の通りです。

  • 抗原:
    免疫反応を引き起こす物質で、タンパク質や糖、脂質、その他有機物などがあります。細菌やウイルスは、タンパク質、脂質、核酸などからなる微生物*ですが、これらの異物が体内に入ると、マクロファージや樹状細胞といった細胞がこれらの細胞・ウイルスを取り込んで分解します。
    マクロファージや樹状細胞はこの分解により生じたタンパク質*を抗原としてT細胞(免疫系の司令官となる細胞)に提示します。

    *厳密にはウイルスは自律増殖できないため生物とは考えられていません。また、正確には抗原として提示されるのはタンパク質ではなくペプチドですが、本ページは簡単に概要を紹介するページであり、専門的な用語を極力省いて記述しております。本ページの趣旨をご理解いただき、以降の記載についてもご容赦くださいますようお願いいたします。より正確な情報をお求めの場合は専門書や、より専門的な他のWEBサイトなどをご覧ください。

  • 抗体:
    抗原を提示されたT細胞は、様々な免疫系の細胞に対し異物を排除するよう指令を出します。指令を受ける細胞の中にB細胞がありますが、このB細胞もまた体内に侵入した異物を取り込み、抗体を作る準備を行っています。T細胞が提示された抗原と同じ抗原を持ったB細胞が出合うと、T細胞 はB細胞に対し、その抗原に対する抗体を生産するように指令を出します。これにより、B細胞から抗体が産生されます。
    抗体は免疫グロブリンやイムノグロブリン(Igと略されます)と呼ばれ、ヒトの体内では5種類の抗体が作られています。
    SARS-CoV-2抗体検査において、検出の対象となる抗体はIgMとIgGです。
  • IgM(免疫グロブリンM)
    B細胞の膜上に存在するものや、B細胞から分泌されるものがあります。ウイルスや細菌感染などによる抗原刺激によってまずIgMが分泌されます。
  • IgG(免疫グロブリンG)
    同じくB細胞によって分泌される抗体でIgM分泌の後、時間経過とともにIgGが主に産生されるようになります(クラススイッチ)。時間経過によりIgM → IgGというように分泌される抗体が切り替わる理由は、IgG、IgMそれぞれの役割が異なっており、より特異的に抗原排除を行うのに有効なIgGに切り替わるためです。
  • 感度(真陽性率)
    その検査により、陽性サンプルのうち何%が陽性と検出できるのかの割合。例えば、100個の陽性サンプルのうち、98個が陽性と判断され、2個が陰性(偽陰性)となった場合、98/100=0.98から、その検査の感度は98%となります。
  • 特異度(真陰性率)
    その検査により、陰性サンプルのうち、何%が陰性となるかの割合。例えば、100個の陰性サンプルのうち、5個が陽性(偽陽性)となった場合、95/100=0.95から、その検査の特異度は95%となります。

抗体検査

イムノクロマト法(本項下部で図解)と呼ばれる原理を利用し、血中の抗体を検出する検査方法です。
COVID-19の抗体検査キットではIgMおよびIgGが検出されます。IgMおよびIgGは分泌タイミングが異なる(下図参照)ため、検査キット上のラインにより、大まかな感染タイミングを知ることができます。

図. 発症と比較したSARS-CoV-2感染診断における経時的推定変化
(文献1から和訳して引用)

COVID-19発症後、はじめにIgM抗体が作られます。その後、IgG抗体が産生され、IgM抗体は徐々に減少していきます。IgG抗体は、抗原が除去された後も、長期間体内に存在します。
このように、IgMは感染初期に分泌される抗体のため、検査によりIgMのみが検出された場合は数日~数週間以内にSARS-CoV-2に感染した可能性があります。IgGのみが検出された場合、過去にSARS-CoV-2に感染していた可能性があります。IgMおよびIgGが確認された場合、感染から時間が経過しているものの、比較的最近感染した可能性が示唆されます。

図. 抗体検査キットの検査結果例
上図左から陰性(Negative)、陽性(Positive)、無効(Invalid)

製品により表記は異なりますが、IgM、IgGおよびコントロールを示す目印がキットに付いており、各位置に線が出る/出ないにより結果を判断します。上図の検査キットの場合、IgMが(M)、IgGが(G)、コントロールが(C)で表示されています。
判断基準は次の通りです。

  • Cの位置にのみ線が出た場合は陰性と判断する
  • Mおよび/またはGの位置に線が出て、かつCの位置にも線が出たら、IgMおよび/またはIgG陽性と判断する
  • Cの位置に線が出ない場合は他に線が出ていても無効と判断する(要再検査)

抗体検査のメリット/デメリット

メリット
  • 取扱が容易で誰でも行うことができる
  • 結果判定までが短時間
  • 感染タイミングが分かる(正確に日時が判明するわけではなく、凡その感染タイミングを知ることができる)
  • 特別な機材や器具が不要
デメリット
  • ウイルス感染後初期(凡そ1週間以内)の場合IgMも検出されないことがある。(従って、検査時点で感染しているかどうかが必ずしも正確にはわからない)
  • IgM、IgGは血液中に存在するため、血液サンプルが必須であり、サンプル採取が侵襲的である
  • 変異型ウイルスに対しては結果が正しく出ない場合がある(注)
  • 感度、特異度が明確ではない

注:変異型に対しても有効か否かは各検査キットメーカーにお問い合わせください。

【イムノクロマト法】
ニトロセルロースなどの薄層膜上にサンプルを滴下し、毛細管現象の原理によってサンプルがゆっくりと流れる性質を利用した検査法です。
膜上の検出部には抗原や抗体(一般的には抗体を検出する場合は抗原、抗原を検出する場合は抗体)が固定されており、サンプルが検出部を通過する際に固定された抗体や抗原に標的となる分子が捕捉され、発色します。一般的には金コロイド粒子が発色に利用されています。

検出対象の物質を含んだサンプルを滴下する。
検出対象の分子が、サンプル滴下部の抗体(金コロイドで標識)に捕捉される。
免疫複合体(抗原と抗体の複合体)は、毛細管現象の原理で薄層膜上をゆっくりと移動する。
検出部に固定された抗体により免疫複合体が補足され呈色する。

抗原検査

サンプル中の抗原を検出する方法です。抗体検査と同じく、COVID-19に対してイムノクロマト法を利用した簡易迅速検査キットが各社から発売されています。いわばサンプル中のウイルスや微生物そのものを検出するため、現在進行形で感染が続いているかどうかがわかります。

注:変異型に対しても有効か否かは各検査キットメーカーにお問い合わせください。
当社の扱っているVisCheckは検出原理の理論上(高度保存配列をターゲットとするため)、変異型ウイルスにも対応可能と考えられます。

メリット
  • 取扱が容易で誰でも行うことができる
  • 結果判定までが短時間
  • 現在感染しているかどうかが分かる
  • 特別な機材や器具が不要
  • サンプルが唾液や鼻咽頭ぬぐい液で良いため、侵襲的ではない
デメリット
  • サンプル中のウイルスが少ないと検出されない場合がある
  • 変異型ウイルスを検出できない場合がある
  • 感度、特異度が明確ではない

VisCheckの紹介

VisCheckは株式会社ビズジーンが独自に開発した遺伝子捕獲法を利用する抗原検査キットです。高度保存配列(RNAの中で変異が起こりにくい部分)を標的として検出するため、変異型ウイルスの検出も可能で、またサンプル中のウイルスが少なくても検出可能という特長を有しています。使用方法や製品詳細は以下のURLからご覧ください。

参考:PCR検査について

PCR検査が標的とするのはSARS-CoV-2のRNAであり、リアルタイムRT-PCRによりサンプル中の標的RNAの有無を検出します。検体に含まれるウイルスの核酸を増やして検出するため、迅速簡易検査キットよりも感度に優れています。このため、ウイルス量が少ない場合でも検出可能です。(ただし、ウイルス量が極端に少ない場合やサンプル品質が悪い場合はこの限りではありません)
PCR検査についてはこちらのページ(リンク)で紹介しております。

メリット
  • 感度が高い
  • 特異度が高い
  • 試薬により変異型の検出が可能
  • サンプルが唾液や鼻咽頭ぬぐい液であるため侵襲的ではない
デメリット
  • 簡易検査キットに比べて時間がかかる
  • 機器(リアルタイムPCR装置)や器具を揃える必要がある
  • 検査の手順が簡易検査キットに比べて複雑
  • PCRや生物学的知識のない人が行うのは難しい

参考2:検査タイミングについて

図. 発症と比較したSARS-CoV-2感染診断における経時的推定変化
(文献1から和訳して引用)

上図の通り、発症後暫くはIgM抗体もIgG抗体も産生量が少なく、この時点で抗体検査を行っても抗体検査が陽性にならない場合もあります。従って、発症初期には抗体検査よりも抗原検査の方がウイルスを検出しやすいと言えます。
ただし、感染後すぐなど、サンプル中のウイルスコピー数(ウイルス量)が少なすぎる場合、抗原検査キットでも検出できない可能性は残ります。
PCR検査はいわゆるイムノクロマト法による検査キットより感度が高く、サンプル中のウイルスコピー数が少なくても、ウイルスを検出しやすくなっています。
従って、発症~発症後2週間程度まではPCR検査、それ以降はPCRよりも抗体検査の方がより適していると考えられます。

参考3:各検査比較一覧

抗体検査 抗原検査 PCR
特長 凡その感染タイミングが推測できる(過去の感染が分かる) 現在の感染状況が分かる 現在の感染状況が分かる
検出対象 抗体 抗原 抗原
検体 血液 唾液・鼻咽頭ぬぐい液など 唾液・鼻咽頭ぬぐい液など
方法 特別な手技、装置不要で個人でも実施できる 特別な手技、装置不要で個人でも実施できる 特別な操作、手技が必要なため、基本的に個人では実施できない
時間 15分程度 15分程度 数十分~数時間
感度 PCR検査より低い
(検査時点で感染しているかどうかの判定には不向き)
PCR検査より低い 高い

感度・特異度が高いものが検査として優れていると考えられています。抗原検査や抗体検査を使用(購入)する場合は、感度・特異度の高いものを使用されることをお薦めいたします。

参考文献

1)Sethuraman N, Jeremiah SS, Ryo A. Interpreting Diagnostic Tests for SARS-CoV-2. JAMA. 2020.