安全キャビネット・クリーンベンチ

安全キャビネットの安全要件について

はじめに

一部の人には理解されていないかも知れませんが、安全キャビネットは単にファンやHEPAフィルターを装備しただけの金属の筐体ではなく、より複雑な装置です。同様に、安全キャビネットを安全に機能させることもまた、単純に「定期的にフィルターを交換する」だけで済むほど簡単なことではありません。
この技術資料は、これらの誤った通説や誤解に取り組み、研究者やキャビネットの使用者、施設の安全担当者などにご理解いただくために作成しました。本資料の内容が、環境の安全性を向上させることを期待しています。

安全キャビネットの要件


安全キャビネットが安全であるためには次に掲げる幾つかの要件があります。

  1. HEPA/ULPAフィルター
    安全キャビネットに装着されるフィルターは、適切な集塵能力を有していなければなりません。もし十分な能力を有していない場合、バイオハザードリスクがあります。また、メーカーは出荷前に検査を行い、フィルターに漏れがないことを確認する必要があります。これらのフィルターは極めてデリケートなため (少し落としただけで簡単にダメージを負います)、取扱の際や輸送の際にダメージを与えないようにすることが重要です。同様の理由で、安全キャビネットが実験室等に設置された後も現場でフィルターの検査を行う必要があります。
    また、フィルターの集塵効率の評価については多くの誤った理解があります。これについての情報は、この件に関するESCO社の技術資料をご確認ください。
    (ESCO社のフィルターは、孔径0.3㎛で、業界最高水準の99.9998%の集塵効率であると評価されています。また全てのフィルターはメーカーでの検査のほか、安全キャビネット製造時にも検査を行っています)
  2. 正確な気流コントロール
      キャビネット内の気流パターンは、次の定性的/定量的な性能基準を満たしていなければなりません。

    • 定性的性能基準/気流方向
      気流はガラスウインドウ開口部のいかなる場所においても、内部方向(外部から安全キャビネット内の方向)へ向かっていなければなりません。
      この方向については、極めて厳密に設計しなければなりません。また、製造された全てのキャビネットにおいて、検証を行う必要があります。
      (ESCO社の全てのキャビネットは製造後、気流パターンの試験を行っています)
    • 定量的性能基準/気流風速
      キャビネット内の気流風速は適切な速度でなければなりません。風速が強すぎると気流の乱れや保護性能のロスに繋がります。また、弱すぎると保護性能が低下し、汚染物質が安全キャビネットの外へ漏出する可能性があります。各キャビネットに対しては、それぞれがベストな安全性能を発揮できる風速が存在します。製造メーカーは、自社の安全キャビネットについて試験を行い、最適な設定値を決定する必要があります。この設定値は、製造される全てのキャビネットに設定し、また維持する必要があります。
      (ESCO社の全てのキャビネットは、製造後に風速試験を行っています)
  3. 筐体の封じ込め
    封じ込めとは、有害な物質がキャビネットの前面から外部へ流出することなく、ワークエリア内に全ての有害物質を封じ込めるキャビネット/筐体の能力を指します。安全キャビネットの適切な封じ込め能力は、主に上述した気流(方向性、風速)に依存します。
    安全キャビネットの封じ込め能力を現場や製造後に試験する方法は世界に一つだけしかありません。EN12469:2000に規定されるKI-discus testです。なお、全ての気流試験をクリアしたキャビネットであっても、封じ込め試験で不合格となる場合があることに留意すべきです。
    (ESCO社は欧州圏外のメーカーとしてKI-discus testを実施できる数少ないメーカーの一つです。ESCO社では、統計的な試験プログラムを構築し、製造したキャビネットから統計的にサンプル化したキャビネットに対し工場で個別にKI-discus testを行っています。またESCO社の全ての安全キャビネットはこの方法により試験が行われ、封じ込め性能に関して承認を得ています。さらに、ESCO社のキャビネットは、国際的に認められた機関において、微生物学的手法を用いて操作者の保護能力についても独自に試験を行っています)
  4. キャビネット全体の気密性
    接続部分や継ぎ目から生物学的汚染物質の漏洩が起こらないよう、キャビネット全体が陰圧であり、また気密性が保たれている必要があります。例えば、フィルターは極めて高い集塵効率を誇りますが、設計によっては生物学的汚染物質がフィルターを通過せず、キャビネットの継ぎ目などから漏出することもあります。この状態は、キャビネット全体としては、安全なものだとは言えません。
    (ESCO社のダイナミックチャンバーデザインでは、汚染されたプレナムチャンバーは全体が陰圧状態に覆われており、キャビネット外装に穴が開いたり空気の漏洩があったとしても、全ての汚染物質はフィルターにより捕集されます。また、ESCO社のキャビネットの外郭は500Paまでの耐圧性を有しています。)
  5. 精密設計コンポーネント
    安全キャビネットは、許容誤差が極めて小さく設定されており、精密に設計されています。例えば、エアースロット部分(前面グリル、背面グリル)の孔サイズが1mm違うと、キャビネットの性能パラメーターが変動し、封じ込め試験を通過することができなくなります。また、通常、安全キャビネットは多量の部品(1台あたり100以上)を複雑に組み上げて製造するため、製造業者にとってはより一層難しいものとなっています。
    (ESCO社は精密板金の製造や、電気機械の組み立て分野で20年以上の経験を有しています。最高の品質基準を維持するため、社内の全ての製造プロセスを管理しており、全ての金属部品は再現性を完全に保つため、自動化した製造工場でCNC製造されています)
  6. 電気的・機械的安全性
    安全キャビネット内で行われる作業に係る危険の性質を考慮し、機械的なリスクに対する追加要件を実施する必要があります。(つまり、安全キャビネットで作業を行っている作業者が怪我をしないようにしたり、またその影響により将来的に危険に曝されることや、怪我を負うことを避けるためです)。同様の理由で、作業者を電気的な危険性からも保護する必要があります。
    (ESCO社のキャビネットは一般電気的・機械的安全要求であるIEC61010-1に準拠して設計されています。また、全てのキャビネットは製造後に電気的安全性試験を行っています。他の設計の特長として、例えば、通常のガラスのように簡単に割れないような強化ガラスを標準として使用しています)
  7. 気流制御およびモニタリングシステム
    常にキャビネットが安全に動作するため、全ての重要な安全パラメーター(特に気流)をモニターするための制御・アラームシステムを搭載している必要があります。安全キャビネット内で起こりうる極めて低い風速を計測するために、十分な精度と感度を有するシステムを提供する必要があるため、この点について過少評価してはいけません。
    (ESCO社の全てのキャビネットには、気流アラームや気流検知テクノロジーを使用したモニタリングシステムが装備されています。このシステムは精度要件を満たすだけでなく、室温において変動を補正することも可能です)
  8. 物理試験およびバリデーション
    上述のように、安全キャビネットは安全な操作を可能とするための設計のほか、安全要件を満たすことを確認するための物理的な試験や測定が必要です。これらの試験は製造業者が装置の組み立て後に実施しなければなりません。
    製造業者の多くは、安全基準に合わせた製品試験を行っていると言うかもしれませんが、安全キャビネットの物理的試験は極めて正確な科学であり、多くの分野(エアロゾル生成、測光法、風速計測、気流方向の検証、封じ込め試験など)を網羅しているため、これらの機能が第三者に認定されていない限り、試験が正確にかつ安全に行われているか確認することはできません。
    (この点において、ESCO社は試験専用のラボを有し、最新かつ正確な機器を使用して性能試験を行っており、非常に優れていると言えます。ESCO社の検査検査能力はNSF Biohazard Cabinet Field Certifier programによる認定を受けており、アジア地域においては、安全性および包括性において最上級の検査能力を有しているといえます)

サマリー


全ての要因が相互に関連しているため、1つの性能因子の低下がシステム全体の安全性を脅かす可能性があります。例えば、キャビネットには基準を上回る高い集塵効率を持ったフィルターが付いている場合がありますが、封じ込め要求規格に適合していなければシステム全体として安全であるとはいえません。
また、操作者の安全要件という点においては、上記の性能因子は最低限のものであり、国際的なメーカーであるESCO社などが追加で提供する性能は含まれていないことに留意してください。これらの性能因子はまた、製品の保護やクロスコンタミネーションなどのキャビネット内の「性能」変数、また定期的なフィールド認証や適切な設置など、その他の重要な点についてはカバーしていません。
最後に、上述の安全に関する全ての点を理解すること以外で、キャビネットを安全に保つための最良かつ最も簡単な方法は、購入するキャビネットが次に挙げる主要な国際的安全基準に認定されているかどうかを確認することです。

  • EN 12469 (European safety standard for safety cabinets)
  • NSF 49 (American safety standard for Class II safety cabinets)
  • AS 2252.2 (Australian safety standard for Class II safety cabinets)
  • JIS K3800 (Japanese safety standard for safety cabinets)

安全キャビネットの基準適合性と承認の確認については、次の方法をお薦めいたします。

  1. 安全基準への適合を宣言しているメーカーに対しては、証明書の提出(第三者機関による試験報告書)を求めること。
  2. 関連性のない基準への適合を宣言するメーカーに注意する。例えば、安全キャビネットがISO9001取得企業によって作られていたとしても、上述した安全基準に関するいずれかの試験を受けていなければ、その安全キャビネットは実用的であるとは言えません。
  3. キャビネットの試験を行う第三者機関が、認定された機関でありまたその資格を有していることを確認する。

本資料はESCO社のWhite Paper「WHAT MAKES A BIOLOGICAL SAFETY CABINET SAFE」を弊社が和訳したものです。

ESCO社製品については以下のボタンからご覧いただけます。