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超音波処理は、細胞破砕のみならず均一化、分散、乳化、脱気、化学反応促進など様々なアプリケーションに応用されており、研究者が実験を進める上で実践的かつ、能率的な手法の一つです。その超音波処理について、“消費電力”と“強度(照射される超音波エネルギー)”の関係を明確にすることは、そのプロセスや結果を理解することにとても役立ちます。
消費電力(Output Power)とは、コンバーター(変換機)に伝えられている電気エネルギーの単位です。通常はワット(W)で表され、この値は超音波ホモジナイザー本体ディスプレイに表示されます(Q55は除く)。コンバーターにより電気エネルギーは物理エネルギーに変換されます。コンバーター内の圧電クリスタルに電圧をかけると(印加)、その電圧に比例した縦の振動を生み出します。その上下の動きをプローブ(またはチップ)の先端の振動へと伝え、超音波の発生へと繋がります。プローブ(チップ)の縦の振動の間隔を振幅(Amplitude)と呼び、本体のダイアル(Q55)あるいはAmplitude値(%)設定により変化させることができます。例えば、1/2"破砕ホーンを装着し、Amplitude 50% に設定すると、ホーン(チップ)先端の振幅は約60μmになり、100% に設定すると約120μmになります。(本カタログに記載している振幅(μm)は、100%設定時の振幅値です)
振幅と、ホーンから照射される超音波エネルギーの強度(Intensity) には直接的な関係があり、強度=その振幅によって得られるホーン(チップ)先端から照射される超音波エネルギーと言い換えることができます。Amplitude設定値を小さくすると振幅が小さくなり、強度も低下しますし、逆にAmplitude設定値を大きくすると振幅が大きくなり、強度も高くなります。結果の再現性を高めるためには、サンプル容量、粘度、処理温度などのパラメータを揃えることと共に、Amplitude設定値を合わせることが最も重要な要素となります。消費電力表示は、結果としてその処理に要した電力であり、再現性を高めるための指標ではありません。消費電力はサンプルの性状や温度などで大きく変化するからです。
例えば、Amplitude 50%で水状サンプルを超音波処理しても、消費電力は低いワット数を示しますが、粘度の高いサンプルを処理する場合は、同じAmplitude 50%でも、より高いワット数を示します。両サンプルの処理において、同じ振幅(つまり強度)を得るために必要な電力が異なることを意味しており、粘度の高いサンプルの方がコンバーターに負荷がかかり、結果として多くの消費電力を必要とします。
よって、超音波処理中の消費電力(W)は常に変動しており、ホーンへの負荷が増大した場合はジェネレーターで多くの電力が消費され、逆に負荷が減少した場合はジェネレーターでの消費電力も減少します。このサンプルの性状に依存して変化する消費電力表示は、Amplitude設定における特性の一つでもあり、超音波処理中の負荷の変化が消費電力として表示されるのです。ただ、Amplitude設定による振幅は一定であるため、超音波処理過程での圧力、粘度、温度などの負荷状況の変化にも影響を受けず、再現性の高い安定した結果が得られます。
(参考) 超音波処理の振幅と消費電力の関係は、自動車の走行に置き換えると分かりやすくなります。振幅=速度、消費電力:瞬間値(W)=エンジン回転数/積算値(J)=燃料消費量、負荷要因(温度や粘性) =坂道の勾配として考えてみます。速度(振幅)を60km/h に維持しようと自動車を走らせると、平坦な道(負荷要因)では低いエンジン回転数で燃料の消費も抑えられますが、急な上り坂を走ると、60km/hを維持しようとエンジンの回転数が高くなり、燃料の消費も多くなります。いずれも結果としては同じ速度(60km/h)を維持していますので、振幅から得られる強度は負荷要因に関係なく、一定であることが分かります。