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バイオハザード対策用クラスⅡキャビネット&クリーンベンチにおけるUV照射の考え方

2019年12月19日

1. ESCO社UVライトの波長

UVは、波長によってUVA、UVB、UVCに分けられており、このうちUVBとUVCは微生物のDNAやRNAに変性(チミンダイマー形成、切断)などを引き起こし、除染効果を示します。
ESCO社の安全キャビネットに装着されているUVライトは253.7nmの波長を発し、この波長はUVCの波長範囲に含まれています。(図1参照)

図1.光のスペクトル

UVの有効性は、照射量(時間×強度)と直接的な相関性があり、その単位は一般的にµW・s/cm²またはJ/m²の単位として与えられます。
照射量の考え方からお分かりになる通り、強い強度で短時間照射することと、弱い強度で長時間照射することは、ほぼ同じ有効性があると考えられています。
化学薬品などの化学的除染は、キャビネット内部の素材を傷める可能性があるため、ESCO社はUVライトによる除染を推奨しています。

2. ESCO社UVライト照射量

ESCO社では、ESCO社の安全キャビネットに通常使用されるUVライトのUV照射量測定を行っています。
図2は装置作業台を上から見た状態です。図に示すそれぞれの位置(Location)にUVセンサーを配置し、各位置における1分間当たりのUV照射量を測定しました。

図2.UVセンサー設置位置 (使用機種:Labculture Plus)

測定結果は以下の図の通りです。

図3.各センサー設置位置のUV照射量

図3に示す通り、Rear(キャビネット奥)、Center(キャビネット中央)、Front(キャビネット手前)で、照射強度には差があり、またLocationにおいても大きく異なっていました。
この違いは、UV光源からの距離によるもので、以下の図4に示すように、Rear側よりもFront側の方がUVライトからの距離が遠いためです。

図4.UV光源からFront、Center、Rearまでの距離

3. 菌種とUV照射時間について

一般的な研究室や製造現場において問題となる汚染源としては、ヒト(毛髪や衣類の繊維など)、環境(ほこり、壁、床)、材料(包装、繊維)、設備(設備の錆びなど)、水などがあります。コンタミネーションを起こす菌種の一部として、以下のような微生物が挙げられます。

真菌

Aspergillus niger

バクテリア

Escherichia coli
Staphylococcus aureus
Pseudomonas fluorescens

芽胞形成菌

Bacillus subtilis

また、これらの他に、Saccharomyces cerevisiaeのような、酵母によるコンタミネーションが見られることもあります。
真菌や芽胞形成菌の方がUV照射に対する抵抗性が高く、各菌種に有効とされるUV照射量は以下の通りです。

菌種 照射量(μW/cm²)
Aspergillus niger 330,000
Escherichia coli 7,040
Staphylococcus aureus 6,600
Pseudomonas aeruginosa 7,040
Bacillus subtilis spore 22,000
Saccharomyces cerevisiae 13,200

 
なお、各菌種の不活化に必要とされる照射量は文献によって様々ですが、これはそれぞれの試験環境の違いによるものだと考えられています。例えば、培地やその成分によってUVの吸収性が異なることや、UVは水への透過性が低いことから、高湿度環境ではより高い強度が必要になるといったように、実際に試験を行った環境によって違いが生じるとされています。
ESCO社の行った試験を元に考えてみると、上記表の中で最も高い照射量を必要とするAspergillus nigerの場合、照射実験で照射量が一番低かったLocation1や7の照射量(およそ100μW/cm²)では、55分間の照射が必要だということが分かります。
また、NIH(アメリカ国立衛生研究所)/CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の最小許容照射量の基準である40μW/cm²で考えた場合、芽胞形成菌を不活化する30,000μW/cm²には12.5分の照射で到達する計算になります。ただし、NIH/CDCは、UVへの曝露に角膜障害や皮膚がんのリスクがあるという理由で、安全キャビネットにおけるUV照射を推奨していません。
ESCO社のキャビネットは、ガラスウィンドウが完全に閉まった状態でのみUVランプが点灯し、またガラスウィンドウには99%以上のUVカット性能があり、作業者へのUVの曝露を防いでいます。
このように、UVの長時間照射やオーバーナイトの照射は過剰な照射であることや、人体への影響を考慮し、ESCO社はUV照射時間を60分に設定し、最低限の照射時間を確保しつつ、過剰照射を避けられるようにしています。

 

【参考文献】

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  • Research Journal of Microbiology, Volume 2, No 1, Page 42-49. A primer UV-C light.
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  • Qualls. R.G and Johnson. J.D. 1983. Bioassay and Dose Measurement in UV Disinfection. Applied Environmental Microbiology, p 872-877.
  • Riesenman. P.J and Nicholson. W.L. 2000. Role of the Spore Coat Layers in Bacillus subtilis Spore Resistance to hydrogen Peroxide, Artificial UV-C, UV-B, and Solar UV Radiation. Applied Environmental Microbiology p 620– 626.


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