アプリケーションノート

anvajo R-300アプリケーションノート vol.3
~ホログラフィック顕微鏡と機械学習アルゴリズムを使用した正確で信頼性のあるセルカウント~

fluidlab R-300
ホログラフィック顕微鏡と機械学習アルゴリズムを使用した正確で信頼性のあるセルカウント

※本資料はanvajo社が作成した資料(英文)を当社が日本語に翻訳したものです。本ページ下部のリンクボタンから、原文のPDFファイルをダウンロードすることができます。日本語訳に当たっては可能な限り読みやすいよう、一部内容を簡素化している場合がございます。英語原文と日本語訳の内容に相違がある場合は英語原文の内容が優先いたします。必ず英語原文と併せてご覧ください。

Introduction

正確で信頼性の高いセルカウントは、生物学的研究における細胞培養やバイオプロセスにおける工程管理など、様々な目的において重要です。細胞培養の品質に関する重要な指標として、細胞濃度、形態と生細胞数があります。
セルカウントの方法について考えたとき、マニュアルカウントか自動セルカウントのどちらの方法がより良いのか、と思う人も多いのではないでしょうか。
血球計算盤を使用する従来のマニュアルカウントには技術や経験が必要です。また、個人で手技に違いがあるため、マニュアルカウントは自動セルカウントよりも手技の影響を受けやすくなります。
fluidlab R-300は最先端のデジタルホログラフィック顕微鏡とディープニューラルネットワークに基づく全自動分析を合わせることにより、早くて正確な細胞測定を実現しています。
明視野顕微鏡を使った従来型の自動セルカウンターとfluidlab R-300との大きな違いは、ホログラフィック顕微鏡はサンプルのコントラストを上げるための追加染色を必要とせず、またサンプルに関する情報をより多く得られる点にあります。さらに、細胞濃度だけでなく、染色フリーで生存率の測定を個なうことも可能です。※1
この試験では、CLSIガイドライン EP05-A3※2の推奨事項に従ってfluidlab R-300セルカウンターの性能を評価するため、形態やサイズの異なる3タイプの細胞(HeLa、PBMCs、yeast)をカウントし、正確性、精度、線形性、再現性の検討を行いました。得られたデータにより、fluidlab R-300が正確かつ高い精度を持ち、また様々な細胞株や濃度において結果に線形性があることが示されました。

1 Application Note – Holographic analysis of single cells: native and staining-free pharmacologic assessment of drug dose responses (www.anvajo.com/products/fluidlab-r300)
2 Clinical & Laboratory Standards Institute: Evaluation of Precision of Quantitative Measurement Procedures, Approved Guideline - 3rd Edition

方法

細胞サンプルの準備

HeLa細胞をDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)で培養し、トリプシン処理によってフラスコ内壁から剝がしました。セルカウンターの検証を行う間のサンプルの変動を最小限に抑えるため、HeLa細胞は小分けにした後濃度~106 cells/mLで凍結培地 (DMEM, 10% DMSO, 20% FBS)にて凍結し、-20℃で保管しました。
同様に、酵母(Saccharomyces cerevisiae)はyeast培養培地(NaCl-ペプトン緩衝液とスクロース)で20℃、2日間培養し、小分けにした後濃度~107 cells/mLをグリセロール15%(v/v)溶液にて-20℃で凍結しました。
毎試験前に、小分けしたHeLa細胞および酵母を速やかに融解し、PBSで洗浄して遠心を行いました。上清は廃棄し、HeLa細胞は~107 cells/mL、酵母は~108 cells/mLとなるように、少量の培養液でペレットを再懸濁しました。
標準濃度のサンプルは、血球計算盤で細胞ストックをマニュアルカウントし、また培養液で各希釈サンプルを調製することにより準備しました。
ヒトPBMCのサンプルは、密度勾配遠心法(Ficoll-Paque を使用)によりサンプルから赤血球(RBCs)を除去し、健常ドナーサンプルのバフィーコートから分離しました。
ペレットは107 cells/mLとなるように少量のPBSで再懸濁しました。生存率を確保するため、同日の試験実施まで4℃で保存しました。(6時間以内)

自動セルカウント

fluidlab R-300と他社の明視野セルカウンターを使用して自動セルカウントを行いました。fluidlab R-300での測定は、acella100 サンプルキャリアにサンプルを20μL注入し、装置にセットして行いました。
fluidlab R-300は、デジタルホログラフィック顕微鏡とディープニューラルネットワーク細胞検知アルゴリズムに基づいて、ユーザーが指定したサイズ区間で細胞をカウントします。
細胞に対して適切なサイズを設定すると、サンプル中の細胞のデブリや他の細胞株の集団を排除して分析することが可能です。一度測定すれば、ヒストグラムを使用して細胞サイズ範囲を調節することができます。
その後、さらにデータ分析を行うため、anvajo datalabソフトウェアを使用して、測定したデータをPCへエクスポートしました。
また、比較試験として他社のセルカウンターを使用して試験を行いました。使用説明書に従い、同じ細胞サンプルで、また細胞サイズを同じ設定に合わせて測定を行いました。

結果

fluidlab R-300の自動セルカウントの汎用性を明らかにするため、形態と大きさが明確に異なる3種の細胞タイプで性能をテストしました。(図1)
HeLa細胞は生物学・臨床研究の両方で使用されている不死化ヒト細胞株で、培地にもよりますが、通常の大きさは直径20-40μmです。
対して、末梢血単核細胞(PBMCs)は診断学と免疫学の幅広い調査研究において共通で使われる主要な細胞株で、その大きさはヒト細胞の中でも一番小さく、直径7-10μm程度です。
従来セルカウントの手法でプライマリーセルサンプルの細胞濃度を正確に測定するのは難しいかも知れません。なぜなら、プライマリーセル細胞サンプルに含まれる細胞の種類は均一ではなく、また細胞のデブリが含まれていることが多いからです。
最後に、小さな細胞に対するセルカウンターの能力を評価するため、平均サイズ約5μm の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を使用しました。
酵母は、分子生物学や細胞生物学の分野で最もよく研究されている真核生物モデルの一種で、またビール作りやワイン産業における発酵プロセスにおいても重要な役割を担っています。

図1. fluidlab R-300によるHeLa細胞(左)、末梢血単核細胞(PBMCs)と酵母(右)のカウント。ホログラフィック顕微鏡画像で、緑の四角で囲まれた細胞に基づいてセルカウントの結果を確認することができます。また、細胞の形態やサンプルの均一性のほか、サンプル中の細胞デブリやごみの評価も可能です。なお、上記の画像は、視認性のため全視野(5.3mm2)ではなく、その一部を示しています。
fluidlab R-300セルカウンターは様々な濃度に対応します

fluidlab R-300は幅広い濃度範囲(104-107個/mL)で自動セルカウントを行うことができます。
他社のセルカウンターに対し、線形性を評価するため、3つの異なる細胞 (HeLa、PBMCs、酵母)の希釈系列サンプルを、特定の濃度範囲で試験しました。
図2は、fluidlab R-300による3種類の細胞株のセルカウントの結果を、他社品と比較したものです。
高い線形性(決定係数R2で示される)は、fluidlab R-300が広い濃度で、異なる種類の細胞を確実に検出しカウントすることを示しています。
また、fluidlab R-300による総カウントの結果は、他社品と同等であることが示されました。(直線の傾きが1に近いため)

図2. fluidlab R-300でのセルカウントは広い濃度の異なる細胞で高い線形性を示します。他社品と比較して、fluidlab R-300の線形性を評価するため、異なる濃度のHeLa細胞、PBMC、酵母を3回に分けて、それぞれ別の日に測定しました。平均濃度に対するすべての測定結果は、全複製サンプルの平均(N=9)をとり、ばらつき評価のため標準偏差を算出しました。他社品においても同様の手順を実施した。エラーバーは標準偏差を示します。
fluidlab R-300の正確かつ精密なセルカウント

セルカウンターの正確性は、測定値がいかに「標準」または既知の値に近いかを示します。一方で、精度は複製サンプルの測定値が互いに近いかどうかを示しています。
セルカウントでは、血球計算盤を使用した顕微鏡によるマニュアルカウントがよく標準的な方法とされます。しかし、マニュアルカウントはエラーが発生しやすく、時間もかかり、また各人員の習熟度に大きく左右されます。
そこで、3種類の異なった細胞と濃度で、マニュアルカウント、fluidlab R-300、そして他社品でセルカウントを実施し、その結果について比較を行いました。得られた結果は図3の通りです。
濃度範囲105~107 cells/mLにおいては、fluidlab R-300によるカウントとマニュアルカウントの正確性は同程度でした。より低い濃度では、fluidlab R-300のカウントはマニュアルカウントの正確性と相違が見られましたが、他社品とは同等の正確性を示しました。
視野内で検知される細胞の数が少ないほど、統計値としては乏しいものになります。細胞濃度が上がると分析に含まれる細胞数も多くなるため、誤差も小さくなります。試験を行った3種類の細胞株および濃度の大半において、fluidlab R-300によるセルカウントは高い正確性を示しました。(図3のエラーバーを参照)
全体的には、fluidlab R-300でのセルカウント(計測に要する時間は1サンプル当たり30秒未満)は、様々な細胞株や濃度において正確性と精度を示しました。

図3. fluidlab R-300セルカウンターの正確性と精度を決定するため、すべてのサンプルは血球計算盤を用いて手動で3回測定し(標準値決定)、その後自動セルカウンターを使って10回測定しました。
試験は、それぞれ3つの濃度の3種類の細胞株で、fluidlab R-300および他社セルカウンターを使用して行いました。与えられた濃度での全ての測定結果は、すべての複製サンプル(N=10)を平均し、ばらつきを評価するため標準偏差を算出しました。エラーバーは標準偏差を示します。

自動セルカウントは再現性のある結果を担保する

実験や製造プロセスにおいて再現性を担保するため、自動セルカウントに必要不可欠なことは、カウント間のばらつきが小さく、再現性が高いことです。
fluidlab R-300セルカウンターの再現性を評価するため、3種類(HeLa,、PBMCs、酵母)の細胞株を使用し、各3つの濃度で10日間別々に試験を行いました。
試験環境での潜在的なばらつきを最小限に抑えるため、HeLa細胞、酵母は凍結ストックを使用し、PBMCsは毎日血液から分離しました。
図4にこの試験の結果を示しています。
日ごとのばらつきは、試験環境の違いを反映していると考えられ、どちらの装置においても同様の傾向が見られました。表1は、全ての細胞株と濃度に対する、各装置の試験結果の変動係数を示しています。
全体として、各試験間の変動係数(CV)は他社品よりもfluidlab R-300の方が低くなりました。つまり、fluidlab R-300で得られたセルカウントの結果は、異なる実験日間でも再現性が非常に高かったことを示しています。

図4. fluidlab R-300セルカウンターの再現性を検証するため、複数のサンプルを10日間に渡って測定しました。試験は1日に2回(午前と午後)行い、また1回測定ごとに2つの複製サンプルを測定しました。3種類の細胞株(HeLa、PBMCs、酵母)それぞれに対し、3つの異なった濃度で試験を行いました。表上の記号は、fluidlab R-300を使用して同日に行ったサンプルの試験結果(N=4)の平均を示しています。エラーバーは標準偏差を示しています。他社セルカウンターを使用して行った試験結果は、点線で示しています。
HeLa
モデル fluidlab R-300 他社セルカウンター
nominal concentration
[cells/mL]
mean
[cells/mL]
CV mean
[cells/mL]
CV
5,00E+04 6,64E+04 16% 7,42E+04 24%
5,00E+05 5,39E+05 13% 6,43E+05 17%
5,00E+06 3,76E+06 10% 6,32E+06 15%
PBMCs
モデル fluidlab R-300 他社セルカウンター
nominal concentration
[cells/mL]
mean
[cells/mL]
CV mean
[cells/mL]
CV
5,00E+04 8,04E+04 21% 5,25E+04 23%
5,00E+05 7,00E+05 14% 4,89E+05 16%
5,00E+06 5,39E+06 11% 4,55E+06 9%
酵母
モデル fluidlab R-300 他社セルカウンター
nominal concentration
[cells/mL]
mean
[cells/mL]
CV mean
[cells/mL]
CV
5,00E+04 5,45E+04 31% 4,20E+04 32%
5,00E+05 4,79E+05 26% 3,76E+05 29%
5,00E+06 4,07E+06 17% 2,79E+06 19%

表1.3つの名目濃度における3種類の細胞株を10日間に渡って測定したアッセイ間のばらつき(午前と午後に同一の試験を実施, N=40)。各サンプルの測定は、fluidlab R-300および他社セルカウンターを使用して行いました。fluidlab R-300のCV値は他社品と較的して低いため、全ての細胞株、濃度での試験結果の再現性がより高いことを示唆しています。

要約

この試験において、均一でないサンプルや、PBMCsや酵母のような小さな細胞を含む様々な種類の細胞の自動セルカウントに、fluidlab R-300が問題無く使用できることが示されました。
また、様々な濃度で正確・精密かつ再現性の高い結果が得られました。それはつまり、fluidlab R-300は細胞増殖のモニタリングや、培養細胞の管理、バイオプロセスなどの様々なアプリケーションを行う上で求められる条件を満たしており、これらの目的で使用できることが示されました。


以下のリンクボタンから、PDFファイルをダウンロードできます。