アプリケーションノート
fluidlab R-300
シングルセルのホログラフィック解析
薬物用量反応に対する天然かつ染色不要の薬理学的評価
※本資料はanvajo社が作成した資料(英文)を当社が日本語に翻訳したものです。本ページ下部のリンクボタンから、原文のPDFファイルをダウンロードすることができます。日本語訳に当たっては可能な限り読みやすいよう、一部内容を簡素化している場合がございます。英語原文と日本語訳の内容に相違がある場合は英語原文の内容が優先いたします。必ず英語原文と併せてご覧ください。
細胞培養研究室における細胞の健康状態のモニタリングには、精度と再現性の高い細胞生存率アッセイが不可欠です。また、生存率アッセイは創薬プロセスや細胞毒性評価における基本的なツールでもあります。
細胞生存率アッセイには、膜が無傷であることを確認する色素排除法、DNAインターカレーション、酵素活性により蛍光を発する代謝アッセイなどの生化学的方法があります。[1,2]
ただし、これらではインキュベーションや、細胞毒性試薬を使用するステップが増えることとなります。また、アッセイの時間も長くなります。
対してfluidlab R-300は、細胞死により起こる形態的変化や、物質的変化に基づいて生存率を検出します。
物質的変化は、例えばタンパク質の代謝を表しており、革新的なfluidlab R-300のホログラフィック顕微鏡における位相信号の定量的性質により評価することができます。
この新しい技術により、追加の操作や染色を行わず、細胞懸濁液から直接生存率を測定できます。
POC(Proof of Concept)試験において、染色フリーで生存率測定が可能なfluidlab R-300の性能に関して、2つの比色生存率測定装置と比較を行いました。
比色生存率アッセイでは、代謝活性のある細胞(生細胞)の指標として多様なマーカーを使用します。
細胞透過性のある試薬は代謝活性のある細胞により還元され、濃色のレポーター分子となり、またその蛍光シグナルはサンプル中の生細胞数に比例します。
これらの比色生存率アッセイは、一般的に薬剤の細胞毒性を決定するためのスクリーニング法として利用されています。ここでは、細胞の健康状態のモニタリングや、薬理学における用量反応曲線の評価において、染色フリーで細胞生存率の測定が可能なfluidlab R-300が有用であるということを示します。
By Elisa Rieckhoff1, Felix Lambrecht1 and Erik Klapproth2.
1anvajo GmbH, Dresden
2Institute of Pharmacology and Toxicology, Faculty of Medicine Carl Gustav Carus, Technische Universität Dresden
96ウェルプレートを3枚使用し、1ウェルあたり1500個になるように各細胞を播種しました。
温度37℃、CO₂濃度5%の条件下で24時間培養し、細胞を接着・増殖させました。次に、低分子薬スタウロスポリンは0.1nM~1000nM、GI254023Xは1μM~1000μMになるように、各ウェルへ添加しました(n=3)。その後4日間、37℃、CO₂ 5%で培養を行いました。
使用した細胞株 | |
---|---|
U87MG | がん細胞 |
MCR5 | 線維芽細胞 |
HL-1 | 心筋細胞 |
細胞生存率評価のため、fluidlab R-300と2つの比色アッセイ(MTTアッセイおよびレサズリンアッセイ)を比較しました。
比色アッセイでは、ウェルの培地を100μLのMTT溶液に交換(最終濃度1mg/mL, RPMI培地中)するか、または20μLのレサズリン溶液(最終濃度0.015mg/mL)200μLを直接各ウェルに添加しました。4時間インキュベーションし、BioTek Synergy HTX Multi-Mode マイクロプレートリーダーを使用し、波長570nmでの吸収を測定しました。
染色フリー生存率測定では、まず細胞を剥がすため、30μLのトリプシンで4分間処理しました。トリプシンの反応は培地を30μL添加し、停止させました。細胞液をacella 100サンプルキャリアに注入し、fluidlab R-300にて生存率を評価しました。
このアッセイでは、薬剤の溶解にDMSOバッファーを使用しました。コントロールは薬剤を含まないDMSOバッファーとし、生存率を算出しました。
機器 | 試薬 |
---|---|
fluidlab R-300 | 細胞培養培地 |
acella100 sample carrier | thiazolyl blue tetrazolium bromide (MTT) |
micro plate reader | レサズリン細胞生存率キット |
96-weel plates | スタウロスポリン、GI254023X |
トリプシン |
3種の細胞株に対して、アポトーシス誘導低分子薬を使用し、アポトーシスを誘導しました。
アポトーシスの誘導は細胞の収縮、膜の断片化、核の凝集といった形態変化とともに特定の分子変化を引き起こします。fluidlab R-300の最新のホログラフィック顕微鏡は、細胞タンパク質組成や細胞形態における変化を可視化することができます3。サンプル中の細胞は、生細胞か死細胞かを判別できる畳み込みニューラルネットワークにより解析されます。生細胞の特長は暗い輪郭と明瞭な細胞質ですが、死細胞には明確な境界が無くなり、黒っぽく見えます。図1はfluidlab-R300で得られた代表的な細胞のイメージです。
3Method:Staining-freeiabilityExplained.
https://anvajo.com/storage/media/documents/1076/fluidlab_viability_explained.pdf
染色フリーのfluidlab R-300と2種の比色アッセイ(MTTとレサズリン)を利用して細胞生存率を測定しました。サンプルの細胞生存率を複数の薬剤濃度で観察しました。スタウロスポリン(一般的なプロテインキナーゼ阻害剤, 抗がん剤候補物質)で処理した3つの細胞株は濃度依存的に細胞生存率が低下しました。(図2)
また、がん細胞(U87MG)については、アポトーシスを誘導するメタロプロテアーゼ阻害剤GI254023Xでも処理を行いました。3種類の生存率アッセイは、全て同様の用量反応曲線を示しました。
用量反応曲線にシグモイド関数を当てはめることにより、各アッセイの50%阻害濃度(IC50)を決定しました。
IC50値から、心筋細胞(HL-1)はがん細胞(U87MG)や線維芽細胞(MCR5)よりもスタウロスポリンに対する感受性が高いことが分かります。fluidlab R-300は、比色アッセイと同等の解析が可能であることが示されました。
ASSAY | Staurosporine IC50 (nM) | ||
---|---|---|---|
がん細胞(U87MG) | 線維芽細胞(MCR5) | 心筋細胞(HL-1) | |
fluidlab R-300 | 54±10 | 48±5 | 34±17 |
MTTアッセイ | 56±29 | 2.2±0.4 | 7±2 |
レサズリンアッセイ | 94±7 | 23±2 | 12±1 |
染色フリーで生存率の測定ができるfluidlab R-300が細胞培養環境での生存率モニタリングに使用できることが示されました。fluidlab R-300の染色フリー解析は、様々な細胞株に対応できるように開発されましたが、このテストにより、実際に異なった形態の3種類の細胞株に対し、fluidlab R-300を使用して生存率を測定できることが分かりました。また、このテストでは、薬剤スクリーニングのプロセスで一般的に使用される代謝活性の定量化に基づく2種類の比色アッセイとfluidlab R-300を比較しました。
3種のアッセイは同等の結果となりましたが、蛍光色素を加えず生存率測定ができるという明確なメリットがfluidlabR-300にあります。
一方で、MTTアッセイやレサズリンアッセイでは、解析前の染色やインキュベーションが必要です。これらのステップは時間がかかるだけではなく、染色がアッセイの結果に良くない影響をもたらす可能性もあります。長時間の色素への曝露は細胞毒性を示す可能性があり、アッセイ自体が培養細胞サンプルの生存率定量に誤差をもたらす可能性があります。[1, 2]
さらに、MTTとレサズリンに対しては様々な化合物が干渉し、細胞活性にかかわらずアッセイ試薬の変性が起こることが示されています。[3]
要約すると、fluidlab R-300 の自動イメージ化と定量分析アプローチで細胞毒性化合物の試験を行うことが可能であり、染色フリーで様々な生化学アッセイにおける細胞生存率測定を行うのに適していると言えます。
[1] Riss, Terry L., et al. "Cell viability assays." Assay Guidance Manual [Internet]. Eli Lilly & Company and the National Center for Advancing Translational Sciences, 2016.
[2] Aslantürk, Özlem Sultan. In vitro cytotoxicity and cell viability assays: principles, advantages, and disadvantages. Vol. 2. InTech, 2018.
[3] Neufeld, Bella H., et al. "Small molecule interferences in resazurin and MTT-based metabolic assays in the absence of cells." Analytical chemistry 90.11 (2018): 6867-6876.
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