アプリケーションノート
著者:
Krzysztof Wronski, Mary Kay Bates, David Phillips, Lindsey Low
キーワード:
細胞治療、細胞生産工程、細胞治療システム、CTS、ISOクラス5、GMPグレードA/Bクリーンルーム、ISO14644、EU GMP、コンタミネーション保護、コンタミネーションコントロール、空気清浄度要件、クリーンルーム適合CO₂インキュベーター、GMP適合証明、ISOクラス5適合、粒子コントロールシステム、粒子制御、第三者認証、HEPAフィルターシステム、ステンレススチール外装、電解研磨ステンレスチャンバー、認証済除染工程、クリーンルーム除染適合性、IP54準拠
はじめに
細胞治療または細胞遺伝工学産業において、クリーンルームでの使用に適合したCO₂インキュベーターはコンタミネーションコントロールに大きな役割を果たしており、人に対する安全で高品質な治療の維持に寄与しています。このようなCO₂インキュベーターは、内蔵されたHEPAフィルターシステムで、装置から放出される粒子をトラップする設計により実現することができます。
クリーンルームへの適合性や、使いやすさに寄与する他の特長として、ステンレス製の外装や、電解研磨チャンバー/棚、より細胞保護性能を高めるためのチャンバー内蔵HEPAフィルター、STERISドライや非凝結式VHPなどを含む除染・クリーニング手順への適合、IP54準拠(1)などがあります。
細胞ベースとした最終の製品は、基本的に量や精製方法が限られており、細胞製品製造においては粒子の管理が依然として主な懸念点となっています。米国における2008年~2012年の滅菌注射剤の回収のうち22%が(2)、また2009年~2019年における回収理由の2番目の原因が(3)、非微生物粒子によるものでした。滅菌注射剤に混入した粒子は、予期せぬ免疫反応や肺塞栓症など、様々な危険性をはらんでいます。また、クリーンルームにおける発生粒子のうちおよそ15%が設備によるものと考えられており(4)、設備からの発生粒子をコントロールすることは、大きなメリットとなります(1)。
これらの理由により、Thermo Scientific Heracell Vios CR および Thermo Scientific Forma Steri-Cycle CR CO₂Incubators Cell Therapy Systems (CTS)シリーズは、ISOクラス5環境およびGMP A/Bグレードクリーンルームでの使用に適した革新的な設計がなされています。これらのCO₂インキュベーターは、ISO14644-14(9)に従い、クリーンルームへの適合性があることが、独立した専門機関(5,6)によって認められています。細胞増殖に最適な環境のほか、優れたパラメーター復帰性能および均一性は初期のHeracell VIOSやForma Steri-Cycleモデルによって証明されており、この優れた技術の組み合わせが細胞・遺伝子治療アプリケーションに大きな進歩をもたらします。先進的な技術(図1参照)により、通常運転時および180℃自動乾熱滅菌サイクル(Steri-Run)中の粒子放出を大きく抑えられることが証明されています。このように、Heracell Vios CRやForma Steri-Cycle CRインキュベーターは、ISOクラス5やグレードA/Bクリーンルームに最適な装置です。費用をかけて改造を行ったりする必要や、構造的な適合要件もありません。
クリーンルームには空気清浄度の基準が厳しく定められているため、新しい機器を新たにクリーンルーム内に据え付けるのは非常に大変です。そのため、メーカーが試験・検証を行い、その機器がISOクラス5適合していることを証明することが重要です。試験方法は(図2参照)ISO14644-14:2016(9)およびVDI 2083 Part 9.1(8)に従い、独立した産業系検査機関にて試験を行いました。これらの規格は、ISO14644-1:2015(7)で規定されている浮遊粒子濃度に関して試験を行うもので、クリーンルームやそれに関連する環境制御エリアで使用する装置について、一段階ずつ試験を行い、適合性を評価します。以下に、試験の方法と認証結果を説明します。
方法:
対象製品
代表機としてHeracell Vios CR、Steri-Cycle CR CO₂インキュベーターを使用し、165Lおよび255Lサイズのモデルを試験しました。
図1.Heracell Vios CRおよびForma Steri-Cycle CR CO₂インキュベーターに組み込まれている粒子捕捉テクノロジーのグラフィックイメージ
装置の使用中に発生した粒子は装置外装内で集められ、装置背面へ送られます(赤矢印)。ここには、H13タイプのHEPAフィルターが取り付けられており、粒子が捕捉されます。HEPAフィルターによってろ過された正常な空気が放出されます(A:細い波型の水色の矢印)。また、装置の電装部の冷却の役割も果たすクリーンルーム内の空気が、フィルター付きの吸気口から吸入されます(B幅広の水色の矢印)。
図2.ISO14644-14: 2016に従って行ったCO₂インキュベーターのクリーンルーム適合性試験の概要
最も粒子が検出された測定ポイントは装置右上、ドアヒンジの上部分でした。このポイントをISOクラス適合性の最終判定に使用しました。
クリーンルームの準備 | インキュベーターの準備 | 初回インキュベーター試験 | 粒子濃度が最大 となる位置を確認 |
① | ② | ③ | ④ |
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Steri-Run中初回スキャン | Steri-Run中の最大粒子濃度ポイントを確認 | 結果分析 | ISOクラス適合性判定 |
⑤ | ⑥ | ⑦ | ⑧ |
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目視検査/GMP適合性要求事項
インキュベーターは、ISO14644-14: 2016の要求事項に従い、本体に損傷はないか、不適切なパーツなどはないか、また表面の清浄度や設計不備について目視確認を行いました。これらの項目はいずれも粒子測定に影響を与える可能性のある項目です。両方のモデルとも、全体の印象としては非常に良好でした(図3)。
さらに、ISO14644-14:2016に従い、クリーンルーム適合設計評価を行いました。これには適切な材質の選択や表面仕上げ、清掃のしやすさなどが含まれています。
全体的な評価の結果、これらのインキュベーターは、0.5μmおよび5.0μmにおいてISOクラス5およびグレードA/Bのエリアに適合性があることが認めらました。(5,6)
外装および内装の表面は艶消し仕上げで、チャンバー表面は電解研磨ステンレスのため、清掃が極めて容易で、残留物が残らないようになっています。研究機器や医療機器には、製造や梱包、輸送、初期の組み立て時に発生した粒子が残っており、使用中に影響を及ぼすことがあるため、最初のクリーニングは非常に重要です。試験した全てのモデルは、残留物の除去が容易で表面は清潔に保たれました。
粒子試験を開始する前に、評価結果に影響を及ぼす可能性のある内容、例えばサイズの違い、操作モードの違い、クリーンルーム用アクセサリなどについて検討しました。その結果、0.5μm、5.0μmの粒子において、ISOクラス5およびグレードA/B適合性証明を行うため、次の4つの異なる条件で試験を行うこととしました。
細胞培養/細胞治療用途や認証目的としては、EU-GMPガイドライン(10)および「Guidance for Industry - Sterile Drug Products Produced by Aseptic Process」(11)にて、考慮すべき粒子径は0.5μm、5.0μmとされています。
一般的な操作モード
CO2インキュベーターで想定される全ての条件で試験を行うことは不可能なため、37℃(加湿およびガス供給なし)を一般的な使用条件と想定しました。チャンバー内の空気は装置から放出される粒子には影響を及ぼさないため、粒子試験として加湿やガスの供給は行いませんでした。ただし、温度が高くなると粒子の放出に影響を及ぼすため、Steri-Run 180℃自動乾熱滅菌サイクルの全工程において試験を実施しました。
粒子モニタリングおよび捕集装置
粒子放出量測定のため、最小でも28.3L/minの空気が採集できるサンプリングプローブが付いた光散乱式パーティクルカウンター(LSAPC)を使用しました。Lasair®Ⅲは、レーザーダイオードをベースとした、流量1CFM(cubic feet per minute)のパーティクルカウンターです(Particle Measuring Systems)。なお、このカウンターは、試験実施前に校正を行いました(5、6)。
試験環境評価
試験は12m2のクリーンルームで実施しました。このクリーンルームには、背面部にF7プレフィルターやH14HEPAフィルターの付いた強力なファン-フィルターモジュールが取り付けられており、水平気流が形成されていました。この気流については、CO₂インキュベーターを設置する前に、試験の要件を満たしているかどうかを次の手順で確認しました。
クリーンルーム内の、異なる6か所でそれぞれ3分間、28.3Lサンプリングを行い、粒子数を測定ました。
気流風速を測定し、0.38-0.43 m/sであることを確認しました。これは、ISO14644-14:2016で要求される試験環境の0.3-0.5 m/sに適合していました。
ISO14644-1:2015(7)により、このクリーンルームはISOクラス4に適合していました。つまり、このテスト環境は、CO2インキュベーターを使用する環境よりも少なくとも1ランク清浄度が高い要件に適合していました(5、6)。
高粒子濃度(HPC: High Particle Concentration)位置の事前特定
この初期試験の目的は、CO2インキュベーターのどの位置で粒子が多く放出されるかを特定することです。これらの高粒子放出位置は、最終測定の際に測定点に含まれることになります。CO₂インキュベーターの全てのエリア、特に角部や開口部のパッキン周辺は慎重に評価を行いました。
大まかにエリアを特定した後、37℃の通常運転下で詳しく調べ、粒子の放出量の多い場所を正確に特定しました。この初回スキャンにおいて、各装置で6か所の高粒子ポイントを特定しました(図4、5、6参照)。
次に、各場所で1分/回の試験をそれぞれ20回ずつ(トータルで20分)行いました(5、6)。
粒子濃度が最大の位置を決定
37℃の通常運転下において、放出粒子濃度が最大であった1か所で、ISO14644-14:2016に規定される100分間試験を行いました。両方のモデルとも同様に、粒子量が多かったのは右上の上ドアヒンジの上側でした(図6)。この場所で、連続して1分おきに1回、計100回(トータルで100分)測定を行いました。
検証プロセスの次のステップでは、Steri-Run180℃自動乾熱滅菌の全工程で試験を行いました。37℃の試験と同様、粒子濃度が最も高い位置は、ドアの右上部分、ヒンジの隣であることがわかりました(5、6)。
データ処理
0.5μm以上の粒子および5.0μm以上の粒子に対して評価を行いました。その後、ISO14644-1:2015に従い、ISOクラスの決定を行いました(7)。
各サイズ範囲の粒子に対して、統計値(相加平均、最大値、最小値、標準偏差、標準誤差、上限信頼限界、そして最も重要な決定因子であるZ値)を計算しました。Z値は、以下の式を用いて算出しました。
Z = (G-UCL) / SE
G = 限界値 UCL = 上限信頼限界95% SE = 標準誤差
目標はZの計算値が1.645より大きくなることで、これはクラス限界G(ここでは、GはISOクラス5で許容される最大の粒子数)が95%の信頼限界を超えなかったことを意味します。ISO14644-14:2016により、これらのインキュベーターは、粒子径0.5μm以上、および5.0μm以上の基準で、ISOクラス5に適合していると考えられました(5、6)。
参考:ISO14644-1:2015分類
以下の内容は、ISO14644-1:2015の分類についての参考です。ISO14644-1:2015 表1は各ISOクラス分類の決定に使用されています。
粒子径0.5μ以上および5.0μm以上の粒子数がクリーンルームの適合性に使用されます。
ISOクラス分類(ISO14644-1:2015) | 以下に示す各サイズ粒子の最大許容濃度(粒子/m3) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
≧0.1μm | ≧0.2μm | ≧0.3μm | ≧0.5μm | ≧1.0μm | ≧5.0μm | |
1 | 10 | |||||
2 | 100 | 24 | 10 | |||
3 | 1,000 | 237 | 102 | 35 | ||
4 | 10,000 | 2,370 | 1,020 | 352 | 83 | |
5 | 100,000 | 23,700 | 10,200 | 3,520 | 832 | |
6 | 1,000,000 | 237,000 | 102,000 | 35,200 | 8,320 | |
7 | 352,000 | 83,200 | 2,930 | |||
8 | 3,520,000 | 832,000 | 29,300 |
【参考】 EU GMP Annex1:無菌医薬品の製造における分類体系
EU GMP Annex1を参照:無菌医薬品の製造における分類体系が定められています。以下の表は、各グレードで許容される最大粒子濃度を示しています(10)。
要件はISO14644-1:2015と非常に似ていますが、いくつか異なる点があります。Annex1では、0.5μm以上または5.0μm以上という、2つの粒子サイズのみが示されています。さらに、現行のISO14644-1:2015では5.0μm以上のものについての許容値が示されていませんが、Annex1にではグレードAで20、グレードBで29とされています。
表中サイズ(≧)に対する、m3あたりの最大許容粒子数 | ||||
---|---|---|---|---|
停止時 | 運転時 | |||
グレード | 0.5μm | 5.0μm | 0.5μm | 5.0μm |
A | 3,520 | 20 | 3,520 | 2,900 |
B | 3,520 | 29 | 352,000 | 2,900 |
C | 352,000 | 2,900 | 3,520,000 | 29,000 |
D | 3,520,000 | 29,000 | 規定なし | 規定なし |
結果:
クリーンルーム適合性に関する文書化と意見
このテクニカルノートにおいては、クリーンルーム適合性における重要な決定因子である測定分類試験の結果のみが示されています。この段階的手法および各試験データは要求に応じて開示することが可能です。(5,6)
37℃環境におけるHeracell Vios 160iと250i CRの結果
Heracell Vios 160i CR および 250i CR (100分、37°C)は、通常の使用下において、ISO14644-14:2016に基づく ISOクラス5基準を達成しました(次の滅菌試験の項目を参照)。Heracell Vios 160i CRでの測定評価の例を図7で示しています。
Steri-Run滅菌サイクル中におけるHeracell Vios 160iおよび250i CRの結果
180℃のSteri-Run滅菌サイクル全期間における測定(12時間サイクル、各モデルに対し2回実施)で、これらのインキュベーターは、強い加熱状態においてもISOクラス5に分類されることが認められました。Steri-Run中の、Heracell Vios 160i CRでの測定評価の例は図8で示しています。Heracell Vios 250i CRの結果は類似しているため省略しています。2つのサイズの粒子(0.5μm、5.0μm)の測定結果は、両モデルともにISOクラス5、グレードA/Bの範囲内に収まりました。
結論:
先進的な機体であるHeracell Vios CRおよびForma Steri-Cycle CR CO₂インキュベーターから放出される粒子量を評価するため、複数回にわたり厳格に検証が行われました。ISO14644-14:2016は、厳しく管理されたクリーンルーム環境に設置する装置の評価について、世界的に認められている基準であり、この試験においては、全ての方法やデータの記録はISO14644-14:2016に厳密に従って行いました。この結果は、これらの革新的なCO2インキュベーターの設計が、ISOクラス5環境下での使用に適しているということを証明しています。装置に組み込まれた先進的なテクノロジーにより、粒子の放出が大幅に抑えられます。
Heracell Vios 160iおよび250i CR CO₂インキュベーターに対し、空気中の粒子濃度を測定することで、包括的な試験を行いました。これらの装置はともに、≧0.5μm、≧5.0μmの粒子において、I SO14644-14:2016に規定されるISOクラス5およびグレードA/B基準を達成することが認められました。
試験方法には、180℃のSteri-Run自動滅菌サイクルの全行程で試験を行うという、厳しい方法も含まれていました。どちらのモデルも、≧0.5μm、≧5.0μmの粒子については、ISO 14644 14:2016に基づくISOクラス5、グレードA/B基準に分類することができます。
粒子放出に関する厳格な試験に加え、両モデルともにステンレス外装、密閉ケーシング、電解研磨式ステンレス内装、IP54電子機器に基づくGMP適合認証を受けました。これら全ての設計は、クリーニングのしやすさや、クリーンルームで一般的に用いられる除染剤への適合性といった特長を有しており、また独立した試験として評価を受けました。(12)
Heracell ViosおよびForma Steri-Cycle CO2インキュベーターはGMPおよびISOクラス5クリーンルーム適合認証を受けた初の市販インキュベーターです。この設計は、GMP規則への適合が求められ、またより安全で高品質な細胞治療製品製造に力を注ぐ製薬会社やバイオテクノロジー企業に対して大きなメリットをもたらします。
翻訳・文責:ワケンビーテック株式会社 企画推進部
本資料はワケンビーテック株式会社がThermo Scientific社の許諾を得て「Compliance testing demonstrates a CO₂ incubator merits
certification for use in grade A/B environments」(英語)を日本語訳したものです。Thermo Scientific社および当社の許諾なく複製、転載を行うことはお控えください。