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Thermo Smart Note:クリーンルームへの適合が認められたCO2インキュベーターのデザインとは何か?
また、なぜ細胞治療や遺伝子治療プロセスにおいて重要なのか?

Smart Notes

クリーンルームへの適合が認められたCO₂インキュベーターのデザインとは何か?
また、なぜ細胞治療や遺伝子治療プロセスにおいて重要なのか?

クリーンルーム適合CO2インキュベーターは、ISO14644-1[1]に準拠した、グレードAの空気清浄度を満たすことが試験を受け、証明されているものです。これらの試験は、ISO14644-14に従い、独立した専門の第三者機関によって行われます。

クリーンルーム内の粒子は、ISO1644-14や、米国薬局方[2]、欧州薬局方[3]、日本薬局方[4]などの基準に従い厳格にモニターされています。クリーンルーム内の粒子の大半はそこで働くスタッフに由来するものですが、およそ15%が装置に由来しています[5]。

2008年から2012年の間の米国食品医薬局(FDA)による滅菌注射剤のリコールのうち22%が粒子によるものでした[6]。また、2009年から2019年の間のリコールにおいて、粒子が原因となったものは全体の2番目の多さでした[7]。このように、細胞医薬品など生物由来医薬品を製造する企業にとって、粒子は大きな懸念材料となっています。
なお、これには無菌保証リコールの主要な原因である微生物のコンタミネーションは含まれていません。
滅菌注射剤への粒子の混入は、それを患者に投与することによって、予期せぬ免疫反応を惹起したり、肺塞栓症を引き起こす可能性など、様々な危険性を孕んでいます。

装置から発せられる粒子の原因として、塗装面、プラスチック、絶縁物質、包材、ガラス、鋭利な金属パーツ、溝部(微生物の増殖する可能性がある)などの装置の構成物があります。装置から発せられる粒子の数を推定することは難しく、実際の数を確認するには試験をするしか方法はありません。また、偏りのないデータを得るためには、メーカーではない第三者機関によって行われるべきです。

Thermo Scientific製 クリーンルーム対応インキュベーター

クリーンルーム適合インキュベーターの設計試験と認証方法

CO2インキュベーターの試験は、ISOクラス4の基準を満たすことがバリデートされ、保証されているクリーンルームで行われます。
試験に使用するパーティクルモニターも同様にバリデートされ、精度が保証されているものを使用する必要があります。
粒子の放出に関して、装置上またはその周囲の少なくとも7点、排気部やドアの部分では特に注意を払って測定を行います。37℃で装置を稼働させ、各ポイントで20分間測定します。測定後、粒子数が最も多く見られたポイントでさらに100分間測定を行います。高温になるほど粒子放出量が増加するため、高温滅菌サイクル実行中の粒子モニターも同様の方法で行います[8]。図1はクリーンルーム適合CO2インキュベーターにおいて得られた結果です。

図1. Heracell Vios 250i CR*(37℃設定、加湿、CO2供給なし)の測定ポイント4(MP4)で得られた粒子数。
ISOクラス5基準内にて稼働していることが分かる。
*Heracell Vios 250i CRは、フォーマ ステリサイクル CO₂インキュベーター i250 CRと同一機種です
表1. FDAによる注射剤のリコールにおける外来粒子のタイプ順位[7]
1 ガラス
2 薬剤有効成分
3 ステンレス
4 毛髪
5 シリコン、プラスチック
6 繊維
7 ゴム

なぜクリーンルームの粒子が懸念されるのか?

注射剤への粒子の混入は、患者に対するリスクがあります。微生物が含まれていた場合は疾患や炎症性免疫反応、組織障害などを引き起こします[7]。非生物性の粒子であっても、そのサイズや成分により、血管障害や血栓、肺塞栓、肺や肝臓の組織障害を引き起こす可能性があり[5]、危険なことに変わりはありません。

クリーンルームにおける機器由来の粒子の種類は何か?

外来粒子とは、薬剤や、薬剤処理に由来しない、外因性の粒子のことを指します[5]。表1は、クリーンルームで見られる外来粒子の種類およびその相対頻度の一覧です。HEPAフィルターにより粒子が捕捉され、クリーンルームの清浄度は規定のISOクラスに保たれます。

細胞治療や細胞遺伝工学プロセスにおける主要な装置として、クリーンルーム適合CO2インキュベーターはコンタミネーションおよび粒子のコントロールにおいて大きなメリットをもたらします。搭載したHEPAフィルターにより、排出される微粒子を捕捉することで、このメリットが得られます。また、クリーンルーム適合CO2インキュベーターのその他の特長として、操作・制御・清掃が簡単であるほか、電磁研磨ステンレスチャンバーや棚、細胞を保護するための内蔵HEPAフィルターシステム、乾燥・不凝式STERIS VHP™処理対応、また、保護等級IP54準拠などの特長があります。

まとめ

クリーンルーム適合CO2インキュベーターは、粒子放出をコントロールすることにより、規制遵守をサポートします。また最終的には、クリーンルームの室内環境を維持することにより、最終製品の安全性や純度、品質へのリスクを軽減することができます。

参考文献

  1. International Standard ISO 14644 (2015) Cleanrooms and associate controlled environments. International Organizationfor Standardization (ISO).
  2. The United States Pharmacopeial Convention (2013) The United States Pharmacopeia and National Formulary.
  3. European Directorate for the Quality of Medicines & HealthCare, Council of Europe (2020) European Pharmacopeia 10th ed. Strasbourg France.
  4. The Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare (2016) The Japanese Pharmacopoeia 17th ed.
  5. Clarke D, Stanton J, Powers D, et al. (2016) Managing particulates in cell therapy: Guidance for best practice. Cytotherapy 18(9):1063-1076.
  6. Tawde, SA. (2015) Particulate matter in injectables: Main cause for recalls. Journal of Pharmacovigilance 03.
  7. Eglovitch, JS. (2019) FDA: Despite improvement, particulate-related injectables recalls remain a concern. Pink Sheet, Informa Pharma Intelligence.
  8. Wronski K, Bates MK, Low L. (2021) Compliance testing demonstrates a new CO₂ incubator merits certification for use

本記事は、Thermo Fisher Scientific社のSmart Note "What is a certified cleanroom-compatible CO2 incubator design, and why is this an important consideration for any cell therapy or gene therapy process?" を、Thermo Fisher Scientific社の許諾を得て弊社が日本語訳したものです。原文は以下のリンクボタン(英語版)からご覧いただけます。